監査業務の1年

公認会計士がどんな資格かはわかったけれど、普段はどのように仕事をしているんだろう。

そんな疑問にお答えすべく、とある監査チームを例にとって、1年間の監査スケジュールと公認会計士の仕事の内容をご紹介します。

クライアント(監査対象会社)の紹介

  • 3月決算の東証1部上場会社
  • 製造業
  • 本社は東京
  • 東北、九州に工場がある
  • 全国に5ヶ所の支社がある
  • 海外に3つの子会社がある

監査チームの紹介

 監査は公認会計士がチームを組んで実施します。(この監査チームの場合)

  • 親会社及びグループの監査は、監査法人の東京事務所が担当
  • 監査チームメンバーは8人(クライアントの規模などによって異なる)
  • 内訳は監査責任者2人、主査1人、監査補助者5人
  • 海外子会社の監査は、現地のメンバーファーム(業務提携をしている海外の監査法人)に所属する会計士が担当

監査チームメンバーの役割

監査チームのメンバーにはそれぞれ役割があります。

監査責任者

監査チームに2~3名程度いる監査責任者です。監査補助者が作成した監査調書を見て、監査手続が適切に行われているか確認し、必要な指示を行います。監査の内容及び結果について責任を負い、監査報告書に署名・捺印をします。

主査

主査/現場主任/インチャージなど、呼び方はいろいろありますが、監査補助者のうち、監査現場での進捗管理や取りまとめを行うのが役割です。その他の監査補助者が作成した監査調書を見て、監査手続が適切に行われているか確認し、監査責任者へ報告を行います。

監査補助者

監査現場において、割当に応じて個別の勘定科目の監査を行い、監査調書を作成します。

1年間の監査スケジュール

監査スケジュール監査責任者主査監査補助者
7月頃
監査計画・キックオフミーティング
コメント
7月中旬~8月上旬
四半期レビュー
コメント コメント
8月中旬
夏休み
プライベート プライベート プライベート
8月下旬~
期中監査
コメント
9月頃
経営者とのディスカッション
コメント
10月中旬~11月上旬
四半期レビュー
11月中旬~12月下旬
期中監査
コメント
1月中旬~2月上旬
四半期レビュー
2月下旬~
期中監査
コメント
期末日付近
実査・棚卸立会
コメント
4月中旬~5月上旬
期末監査
コメント
5月中旬
監査役会への報告会
コメント
5月下旬~6月上旬
有報チェック
コメント
6月下旬
定時株主総会
キャリアプラン キャリアプラン

監査業務の説明文

説明文1. 監査計画・キックオフミーティング

3月決算の会社の場合、6月後半くらいから7月に新年度の監査契約を結び、監査のスタートは7月になります。

まずは、監査責任者と主査を中心に、監査計画を立てるところから始めます。

監査計画を立てるにあたっては、監査チームでキックオフミーティングを実施して、クライアントの経営環境や事業内容の変化、リスクが高まっている領域などについて話し合います。

構成単位の監査人(海外子会社の監査を担当している現地の会計士)に対しては、当期の監査計画に基づいて作成した指示書を送って、子会社に対する必要な監査手続やグループ監査チームに報告すべき内容、報告期限などを指示します。

説明文2. 四半期レビュー

3月決算の会社は第1四半期が6月末に終了し、四半期決算の処理が7月半ばに終了しますので、その後の7月中旬から8月上旬までクライアントに行って第1四半期レビューを行います。

四半期レビューは期末監査よりも省略された手続を行いますが、上場会社は毎四半期末日後45日以内に四半期報告書を提出する義務があるため、それまでに四半期レビューを終わらせなければなりません。

同様に、第2四半期レビューは10月中旬~11月上旬頃、第3四半期レビューは1月中旬~2月上旬頃に行います。

説明文3. 期中監査

期中監査では主に以下の手続を行います。

内部統制の検証

支社、工場への往査(監査に行くこと)

本社での監査だけでは現場の実態がわからないこともあるため、実際に支社や工場に行って各種帳票を見たり、現場視察やヒアリングを行います。

海外子会社への往査

海外子会社の監査を構成単位の監査人が担当している場合でも、重要な子会社については毎年あるいは何年かに1度往査して、現場視察やヒアリングを行ったり、構成単位の監査人から監査の状況について聴取します。

説明文4. 経営者とのディスカッション

経営者とのディスカッションには、監査責任者と主査が出席することが一般的です。

説明文5. 実査・棚卸立会

一般的に、実査は期末日かその翌日、棚卸は期末日かそれより前(店舗がたくさんあるなど、在庫が複数の場所に分散している場合などには、何回かに分けて実施することもある)に実施します。

説明文6. 期末監査

クライアントが算定した決算期末日時点の資産と負債の残高、1年間の収益と費用の計上額が正しいかどうかについて、監査手続を実施します。期中の取引については、四半期レビューで検討しているので、その結果を利用することができます。また、計算書類が適正に作成されているかどうかについても検討します。

説明文7. 監査役会への報告会

期末監査の結果や実施した監査手続、リスクが高いと考えられるため重点的に監査を実施した領域などについて、監査役会に説明し、監査報告書を提出します。

なお、期末監査後だけでなく、四半期レビューが終了した都度、報告会を開催して監査役会に説明することもあります。また、もし監査の過程で違法行為などの重大な問題を発見した場合には、定例の報告会に限らず、速やかに監査役会に報告しなくてはいけません。

説明文8. 有報チェック

クライアントが作成した有価証券報告書のドラフトをチェックすることをいいます。

説明文9. 株主総会

3月決算の会社では、定時株主総会は一般的に6月後半に開催されることが多く、株主に対して計算書類の報告などを行います。その際、株主から計算書類に関してクライアントが予想していない質問が出る場合に備えて、クライアントからの要望により、監査責任者もしくは主査が控えていることもあります。

監査計画について監査責任者のコメント

監査を実施するための、いわば心臓部分で、今年度の監査を実施するうえでとても重要なところです。クライアントを取り巻く環境の変化、前期の監査での検出事項、クライアントの抱える問題をタイムリーに計画に織り込んでいきます。また、新聞やインターネットだけでなく、自分自身の業界内のネットワークなど、あらゆるものを生かしてクライアントに関連する情報を取得し、チームメンバーと共有してディスカッションをし、監査計画を作成する必要があります。監査計画は一度作成すれば終わりではなく、期中に状況が変化したらその都度見直しています。

1Qレビューについて主査のコメント

1Qでは四半期報告書として、当期の数字が初めて開示されるので、特に慎重に検討する必要があります。例えば、会計方針は原則として期中で変更ができないため、会社が会計方針の変更を検討している場合には、1Qレビュー時にしっかりと検討しておかなければなりません。また、当期の財務情報の基礎について、重要な変更がないかしっかりクライアントと話をし、責任者を交えて検討する必要があります。

1Qレビューについて監査補助者のコメント

期首はクライアントの動きが多く、検討することが多いので、適時に主査に報告できるよう意識を張り巡らせます。 クライアントが新たなスタートを切ると同時に、チーム体制が変わることもあるので、新鮮な気持ちで業務に取り組んでいます。

期中監査について監査責任者のコメント

毎年往査にいく海外子会社の他に、数年ごとに往査対象とする海外子会社もあります。

国によっても現地の監査のレベルが当然異なります。海外では許容されることであっても日本の基準では認められないことも多いため、構成単位の監査人に任せきりというわけにはいきません。

やはり親会社の監査人として、厳格な目線で対応する必要があります。

また、子会社といえど、1つの会社であり、海外であればビジネスのやり方やマネジメントも独特なので、新しい目線で経営者と対応する必要があります。

期中監査について主査のコメント

実際に現場を見に行くことが、監査で最も重要なことと考えています。支店業務や工場にて実際の製造の現場を見ることで、会計と実態の相違に気づくこともよくあります。

また、最近では、今まで以上に経営者や従業員による不正が注目されるようになりました。本社のコントロールが行き届きにくい子会社・支店・工場はリスクが高くなりがちなので、手は抜けません。

期中監査について監査補助者のコメント

全ての支店・工場に主査が立ち会えるわけではないので、監査チームの若手メンバーが支店・工場の往査のリーダーとして対応することがあります。いわば、主査になるための経験が積める場所でもあります。

経営者とのディスカッションについて監査責任者のコメント

クライアント経営者のビジネスにかける想い、今後の成長戦略、事業環境の状況など、迫力ある内容を生でディスカッションする場所であり一瞬たりとも気を抜けません。経営者としっかり話し込んで、業界におけるクライアントの最新状況を把握する必要があります。

ここを踏み外すと監査の失敗になりかねません。つまり、重要な虚偽表示や不正の発端の可能性が高い経営者不正を見逃すこともあり得ます。

実査・棚卸立会について監査補助者のコメント

実査では、クライアントの担当者が横で見ている中で現金などを数えるので、少し緊張します。

棚卸立会では、クライアントによる棚卸が適切に行われているかどうか観察したり、実際に自分でテストカウントして確かめたりします。

クライアントの業種によっていろいろな在庫を見ることになりますが、私の同期は巨大な冷蔵庫に入って食品を数えたそうです。

期末監査について主査のコメント

期末監査の前には、クライアントの計画や予算と当期実績の数字の差が大きいかどうかといった状況が見えてくるので、会計上の見積りについては、クライアントと議論になることがあります。

監査役会への報告会について監査責任者のコメント

監査役会は、公認会計士である会計監査人の監査結果に基づいて、監査役会としての監査報告書を提出するため、私達が行った監査の結果をわかりやすく監査役会に説明するように心がけています。

有報チェックについて監査補助者のコメント

有報チェックでは、期末監査で確かめた決算数値などが正しく有報に記載されているかを確かめるので、電卓を何度も叩きながら、表の合計チェックなどを行っています。決算数値の表示誤りを見逃してしまうと、せっかく苦労して行った監査が水の泡になるので、細心の注意を払ってチェックしています。

プライベートについて監査責任者のコメント

結婚して子供ができてからは時間の確保に苦労しました。その経験を踏まえて監査チームのメンバーには積極的にアドバイスするようにしています。また、平日はしっかり仕事をして、週末は家族とゆっくり過ごすなど、メリハリをつけるようにしています。

プライベートについて主査のコメント

期末監査の時期はどうしても仕事が忙しくなるので、繁忙期を乗り切るための体力づくりが重要だと思っています。何事も体が資本なので、休みの日にはスポーツジムに通ったり、ジョギングしたりしています。今年は思い切ってマラソン大会にも参加しました。運動すると仕事のことを忘れられるので、いいリフレッシュにもなりますね。

プライベートについて監査補助者のコメント

多くのクライアントの方に会うので、身だしなみやオシャレにはとても興味があります。休みの日は服を買いに行ったり、ネイルサロンに通ったり、最近はヨガにも通い始めました。土日に有給休暇を付けて、友達とちょっとぜいたくな温泉旅行に行くのが、近頃の楽しみになっています。

キャリアプランについて主査のコメント

今は監査業務をやっていますが、今後はコンサルティングや税務などの経験も積んで、自分の選択肢を広げていきたいと思っています。同期には、希望してコンサルティングの部署に異動した人や、数年間他の業務を経験してから、監査に戻ってきた人もいます。

キャリアプランについて監査補助者のコメント

なるべく早く経験を積んで、早く主査を任せてもらえるようになりたいので、先輩の監査調書を見て、自分の監査調書とどこが違うのか考えたりしています。海外子会社の監査人とのやりとりは、今は先輩がやってくれていますが、自分が担当になったときに困らないように、今から英語の勉強もがんばっています。

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