EUにおけるサステナビリティ情報開示に関する法規制導入の概要

2021年07月19日

 近年、パリ協定で掲げられた「2℃目標」や国連持続可能な開発サミットで掲げられた「持続可能な開発目標」(SDGs)の達成のために、民間資金を脱炭素・持続可能な社会に向けた事業に振り向ける必要性が広く主張されている。
 こうした中、EUでは、サステナブル・ファイナンスの促進に向けた取組が幅広く進められている中で、サステナビリティ情報開示の拡大についても様々な進展があり、現在、以下の3つの柱となる法規制が提案され、順次法制化が進められている。

  1. タクソノミー規則(Regulation on the establishment of a framework to facilitate sustainable investment)
  2. 金融機関に対するサステナビリティ情報開示規則(Sustainable Finance Disclosure Regulation、以下「SFDR」という。)
  3. 企業に対するサステナビリティ情報開示指令(Corporate Sustainability Reporting Directive、以下「CSRD」という。)提案

 このうち、前回の記事では、CSRD提案の内容を紹介したので、本稿では、EUにおけるサスナビリティに関する情報開示政策の全体像を紹介する。



  • 1.タクソノミー規制
     欧州委員会は、2020年6月、タクソノミー規則※1を公布した。タクソノミーとは、環境面でサステナブルな経済活動、すなわち、環境に良い経済活動とは何かを示す分類のことをいう。これまで、「グリーン」や「サステナビリティ」という言葉の指す意味の解釈が人によって様々であったために、投資家と企業のコミュニケーションがスムーズに行われない等の課題が生じていた。こうした問題に対処するために、グリーンの定義を確立し、サステナブル・ファイナンス促進の基盤を整えることを目的としたのが、このタクソノミー規則である。タクソノミー規則では、経済活動ごとにグリーンな活動を定義付けた上で(図表2)、タクソノミーに関する開示要件を定めている。

     当規則の適用対象は以下の3つとしている(タクソノミー規則第2条)。
    ① NFRD(非財務情報開示指令)の対象となる従業員500人超の大企業
    ② 金融商品を提供する金融市場参加者
    ③ EU及びEU各国により採択された金融市場参加者に対する法規則で、環境的にサステナブルな金融商品や社債に関するもの
     このうち、大企業(上記①)と金融市場参加者(上記②)については、下表のように開示要件を定める。
     まず、NFRDにおいて非財務情報を開示することが義務付けられている従業員500人超の大企業に対して※2、タクソノミーの基準を満たす売上及び資本的支出(CapEx)・運営費用(OpEx)の開示が要請される(図表3の「1」)。
     具体的な開示項目及び表示方法は、2021年7月6日に採択された委任法により、企業の業種ごと(非金融機関、与信機関(銀行)、投資会社、アセットマネジャー、保険・再保険会社)に定められている※3。 次に、金融商品を提供する金融市場参加者に対しては、各金融商品が貢献する環境目的及びその貢献の程度等について、開示することが定められている(図表3の「2」)。
     ここで注意が必要なことは、金融機関のうち、①従業員500人超の大企業に該当し、かつ、②金融商品を提供している場合には、事業のタクソノミーの割合を開示し(図表3の「1」への対応)、かつ、金融商品のタクソノミーに関する情報を開示(図表3の「2」への対応)することが必要になるという点である。そして、金融機関がタクソノミー関連の開示を行うために、投資・融資先である企業によるタクソノミーに関する開示が不可欠である(図表4参照)。すなわち、各企業が、売上・CapExの何割がタクソノミーの基準を満たすかを開示し、その情報を基に、金融機関は、自身の投資・融資活動や金融商品のポートフォリオの何割がタクソノミーの基準を満たすかを算定することが可能となるのである※4(図表5参照)。
     なお、サステナビリティを考慮しない金融商品については、「当該金融商品による投資は、EUタクソノミーの基準を考慮していない。」ということを明記するのみでよいとされている。



     タクソノミー規則の適用開始日は、環境目的ごとに時期が定められている。環境目的のうち、気候変動の緩和及び気候変動への適応については、その他の環境目的に先駆けて詳細な基準が既に定められており※8、適用開始日は2022年1月1日となっている。その他の4つの環境目的については、現在、詳細な基準が検討されており、適用開始日は2023年1月1日とされている。



  • 2.SFDR
     欧州委員会は、2019年12月、金融商品に関する情報の非対称性を減らすことを目的として、SFDRを公布した※9。この規則は、金融商品を提供する金融市場参加者と金融アドバイザーを対象とする。
     求められる開示項目は図表5に示すとおりである。適用開始は、一部の条項を除き2021年3月10日であり、既に適用が始まっている。ただし、パンデミックの影響等により、本規則の詳細を定めるRTS(Regulatory Technical Standard)※10の公表が2021年7月以降に延期されることとなったため、現在は、詳細な定めがないまま、SFDRで定められている内容のみに準拠した開示を行い、2022年1月よりRTSに基づく開示が開始される予定である。


     開示項目のうち、「重要な負のサステナビリティインパクト」については、投資により生じる環境・社会に対する負の影響の開示が求められるため、投資先からのサステナビリティ情報が不可欠となる。この「重要な負のサステナビリティインパクト」の具体的な内容として、RTS案※12では、GHG排出、生物多様性、水、廃棄物、男女間賃金格差等の指標の開示が必須となっている。金融機関がこうした指標に関する開示を実施するためには、投資先の各企業においてGHG排出等のサステナビリティ指標の開示がなされる必要がある。それを各企業に要請するのが、次に紹介するCSRD提案である。



  • 3.開示情報の内容

     欧州委員会は、2021年4月21日、企業のサステナビリティ情報開示に関する新たな指令としてCSRD提案を公表した※13。CSRD提案の詳細については、前回記事「EUにおけるCorporate Sustainability Reporting Directive提案についての概要」を参照いただきたいが、ここで注目したいのは、CSRD提案の中で、金融市場参加者がSFDRに遵守した開示を行うために必要とする投資先企業の情報の開示を、各企業に求めている点である(CSRD提案第1条4項)。CSRD提案では、EUサステナビリティ開示基準を策定し、その基準に準拠した開示を義務化していくこと求めており、その開示項目の中に、SFDRで求められる要素も織り込むことで、金融市場参加者の開示にも資する情報開示がなされることにも配慮しているのである。
     加えて、CSRD提案では、タクソノミー規則における基準等を考慮することも示されており(CSRD提案第1条4項)、利用者側の利便性を考慮して、各法規則同士の連携を図っていることがうかがえる。

  • ◆ 今後のスケジュール

     以上、タクソノミー規則、SFDR及びCSRD提案について、各要請の相互関係も含めて説明したが、スケジュールを以下の表にまとめている。サステナブル・ファイナンスの主体となる金融機関における開示が先行し、その後、企業向けの開示が導入される予定となっている。金融機関による開示は、企業の開示情報をベースに行われるため、金融機関の開示が先行している現在のスケジュールについては批判もあり、今後の検討によってはスケジュールが変更される可能性も考えられる。


    (執筆者)
    日本公認会計士協会研究員
    公認会計士
    鶴野 智子

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