第4章 国際財務報告基準(IFRS)の任意適用に向けての我が国の対応

1. 「中間報告」の公表とIFRS対応会議の設置

2009年1月に公表された中間報告案は、コメントの募集とその後の議論を経て、2009年6月30日に、「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」として確定し、公表された。

そこでは、次のような方向性が示されている。

国際的な財務・事業活動を行っている企業の連結財務諸表について、2010年3月期から国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)の任意適用を認める。

日本における将来的なIFRSの強制適用の可能性を検討し、2012年ごろをめどに判断を行う。

2012年に強制適用を判断する場合には、実務対応上必要かつ十分な準備期間として、少なくとも3年間を確保することにより、2015年又は2016年に適用開始する。

強制適用を一斉適用とするか、段階適用とするかについては、今後改めて検討する。

強制適用については、上場会社の連結財務諸表を対象とし、個別財務諸表や非上場会社の連結財務諸表の取扱いについては、今後改めて検討する。

上記「中間報告」が公表されたことを受けて、2009年7月3日にIFRS対応会議が発足した。IFRSの導入にあたっては、民間レベルで主体的に取り組むべき課題も数多くあることから、そのような課題に取り組む体制を、市場関係者の合意のもと、金融庁の支援も得て発足させたものである。

対応会議及び各委員会の主な活動目的は以下のとおりである。

  • IFRS対応会議: IFRS導入にあたっての課題を整理し、その対応についての方針、戦略を検討する。その結果を踏まえ、各実務対応委員会に対して具体策の検討を要請するとともに、関係諸機関・団体に対して対応の実施を要請する。
  • 国際対応委員会: IFRSの採用を前提として重要な会計基準作りにいかに関与していくか、その戦略及び具体的な行動について検討する。
  • 教育・研修委員会: 主として会計実務者を対象としたIFRSの教育・研修システムを早期に確立させ、推進する。
  • 翻訳委員会: 可能な限り正確な日本語版IFRSを作成するための翻訳体制を確立する。
  • 個別財務諸表開示検討委員会: 連結がメインの時代になり、単体の開示の簡略化について考え方を整理する。
  • 広報委員会: 一般投資家、マネージメント層、アナリスト、メディア等の幅広い層に向けて、各関係機関が連携し広報活動を推進する。

日本公認会計士協会は、木下俊男専務理事が教育・研修委員長を務めるとともに、教育・研修委員会と広報委員会の事務局を務めている。

2. 一般財団法人・会計教育研修機構の設立

2009年7月に、一般財団法人・会計教育研修機構が設立された。これは、公認会計士、公認会計士試験合格者、会計実務に携わる者をはじめ、広く会計及び監査に関心を有する者の教育研修に関するニーズを的確に把握し、教材の開発及び教育研修の実施により、これらの者の会計及び監査に関する専門的知識、専門的技能並びに職業倫理の向上を実現し、もって会計及び監査の判断を的確に行える人材の育成に寄与することを目的として設立された組織体であり、日本公認会計士協会が中心となって、経済界、学界及び関係各界が協力している。

3. IFRS導入準備タスク・フォースの設立

2009年9月に、日本経団連、及び日本公認会計士協会が事務局となって、IFRS導入準備タスク・フォースが設立された。これは、IFRSの早期適用を検討している経団連の会員会社21社と、4大監査法人がタスク・フォースのメンバーとなっており、オブザーバーとして金融庁、企業会計基準委員会(Accounting Standards Board of Japan:ASBJ)、東京証券取引所が参加している。

タスク・フォースで抽出された問題点について、論点を整理し、国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board:IASB)に相談する窓口を担うのが、ASBJ内に設置されたIFRS実務対応グループである。

4. 豪州及びインドミッションへの参加

IFRS導入に向けた相互の関係強化及び意見交換のため、日本経済団体連合会、財務会計基準機構とともに、2009年9月に豪州、2010年2月にインド及びシンガポールの関係諸団体を訪問し、報告書を公表した。

それぞれのミッションにおける主要な論点と調査の成果は、以下のとおりである。

豪州ミッション

論点

  • 導入によるコスト・ベネフィット
  • 会計基準・原則主義
  • 財務諸表作成の実務
  • 監査事務所の対応
  • 人材教育・普及活動
  • 公会計

成果

  • 豪州における先行事例は諸環境が異なるものの、日本におけるIFRS導入にあたり導入コストや監査事務所の対応など、豪州がIFRS対応にあたって直面した問題点やその解決について参考となる面があり、今後の導入過程で活用できる。
  • 豪州の会計関連諸団体との良好な関係を構築することに資した。アジア・オセアニアにおける関係強化の礎を築いたこととなり、今後の連携によって日本の発言力強化に繋げていくことが可能となったものと思われる。

インド・シンガポールミッション

論点

  • コンバージェンスへの障害(総論、各論)
  • 初度適用、IFRS導入への準備
  • 導入コスト
  • 教育
  • 解釈問題
  • 中小企業(Small and Medium-sized Enterprise:SME)向け会計基準
  • 税務との関係
  • 開示
  • 会計士の資格、登録関係

成果

  • アジア地域の会計関連諸団体との関係を強化することに資した。
  • 日本でのIFRSの円滑な導入のために、インド・シンガポールにおけるIFRS導入に関する課題について意見交換することができた。
  • 2010年7月に東京にて、第1回日印ダイアログが行われるとともに、日印フォーラムが開催された。また、同年9月に東京で開催されたアジア・オセアニア会計基準設定主体(Asian-Oceanian Standard-Setters Group:AOSSG)会議の成功にも寄与したと思われる。

5. 非上場会社の会計基準に関する懇談会の設置

2010年2月に、非上場会社の会計基準に関する懇談会が設置された。これは、2010年1月22日付で、IFRS対応会議より、IFRSとのコンバージェンスに向けた作業等を通じて日本基準の国際化が進展する状況を踏まえ、非上場会社の会計基準のあり方について検討するため、関係者が一堂に会した懇談会を早急に設置すべきとの提言が示されたことを受けてのものである。

日本公認会計士協会は、日本経団連、ASBJ、日本税理士会連合会、日本商工会議所とともに、共同事務局を務めている。

懇談会では、今後、日本の会計基準の国際化を進めるにあたって、非上場会社への影響を回避又は最小限にとどめる必要があるなどの意見を踏まえ、非上場会社に適用される会計基準のあり方について幅広く検討を行い、2010年8月30日付で、報告書を公表した。

6. IFRS監査・会計特別委員会の設置

2010年11月に、日本公認会計士協会内にIFRS監査・会計特別委員会が設置された。この委員会は、中小監査事務所のIFRS担当者と4大監査法人のIFRS担当者がメンバーとなっており、IFRSの下における監査上、又は会計上の論点についての意見交換や議論を通じてノウハウを蓄積し、日本公認会計士協会として、IFRSに基づく財務諸表監査の円滑な導入及び遂行に向けて、中小監査事務所の支援を含む、一般的論点についての情報及び認識の共有化を図ることを目的としている。

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