IASBがディスカッション・ペーパー「企業結合-開示、のれん及び減損」を公表

2020年05月13日

 IASBは、2020年3月19日、ディスカッション・ペーパー「企業結合-開示、のれん及び減損」を公表しました。本ディスカッション・ペーパーは、事業の取得に関して、当該取得がどのくらい成功したのかを投資家が評価するのに役立つように、企業が報告する情報の可能性のある改善に関するものです。また、IASBは、当該取引から生じるのれんを企業がどのように会計処理すべきかに関してのフィードバックも求めています。


 本ディスカッション・ペーパーでは、全般的な目的は、企業が行う取得に係るより有用な情報を、企業が合理的なコストで提供することが可能か否かを開発することであるとしており、以下の項目に関する予備的見解が示されています。


1. 取得に関する開示の改善

 他の事業を取得することは、企業が成長するための一般的な方法ですが、取得は必ずしも以後の年度において経営者が当初予想したように成果を上げるわけではありません。投資家は、とりわけ企業の経営者に取得の意思決定に関する説明責任を問うことができるように、取得がそうした予想に対してどのくらいの成果を上げているのかについて、さらなる情報を提供して欲しいと考えています。


 この投資家からのフィードバックに対応して、IASBは、取得の目的に関する情報、及び以後の各期間において、取得が当該目的に対してどのように成果を上げているかに関する情報の開示を企業に要求するIFRS基準への変更を提案しています。


 取得に関する開示の改善について、IASBの予備的見解の詳細は以下のとおりです。

(a)取得後の業績に関する新たな開示の要求事項を追加する提案を開発すべきである。
  • (i)取得に着手する戦略上の合理性及び取得日時点での取得に係る経営者(最高経営意思決定者)の目的に関する情報
  • (ii)上記目的を満たしているか否かに関する情報。当該情報は、IASBが定める指標ではなく、取得が目的を満たすか否かを最高経営意思決定者が監視し、かつ評価する方法に基づかなければならない。
  • (iii)最高経営意思決定者が取得を監視しない場合、当該事実の開示、及びその理由の説明。IASBは、そのような場合に、いかなる指標も開示することを要求すべきではない。
  • (iv)企業が目的を満たすか否かを見るため、最高経営意思決定者が取得を継続して監視する限り、上記(ii)における情報の開示
  • (v)最高経営意思決定者が、取得年度後、第2年度末前に当該目的が満たされているか否かの監視を止める場合、当該事実及びその理由
  • (vi)最高経営意思決定者が、取得の目的が満たされているか否かを監視するために用いる指標を変更する場合、新たな指標及び変更の理由
(b)提案している新たな開示の要求事項に加えて、投資家が右記を理解することに役立つ情報を提供する開示目的を追加する提案を開発すべきである。
  • (i)事業を取得する価格に合意した時に企業経営者が取得から期待したベネフィット
  • (ii)取得が経営者(最高経営意思決定者)の取得の目的を満たしている程度
(c)IFRS第3号の開示要求事項に対して的を絞った改善を行う提案を開発すべきである。
  • 企業に以下を開示することを要求する。
      (i)   取得事業の営業と企業の事業の結合から期待されるシナジーの説明
      (ii)  シナジーの実現が期待される時期
      (iii) シナジーの予想額、又は金額の範囲
      (iv) 当該シナジーを達成するための予想コスト又はコストの範囲
  • 財務活動から生じた負債及び確定給付型年金負債が主要な種類の負債であることを規定する。結果的に、当該情報が重要である場合、企業は当該負債金額を、各取得について、取得した事業の一部として別個に開示する必要がある。
  • プロフォーマ情報(IFRS第3号B64項(q)(ii))を開示する規定を維持する。プロフォーマ情報及び取得日後の取得事業に関する情報の両方に関して、「純損益」を「取得関連取引及び統合コスト前営業損益」に置き換える。
  • 取得日後の取得事業の営業活動によるキャッシュ・フロー、及び当報告期間のプロフォーマに基づく結合後企業の当該キャッシュ・フローを開示する要求事項を追加する。

2. のれんの会計処理の改善
  • (1)減損テストの改善
  •  IASBは、のれんの会計処理の方法を変更すべきか否かについても検討しました。企業はのれんの減損テストを毎年行わなければなりませんが、当該テストが有効か否かに関する利害関係者の意見は分かれています。減損テストは投資家に取得の業績に関する情報を提供するとの意見がある一方で、減損テストはコストが嵩んで複雑であり、のれんの減損損失の報告が頻繁に遅れ過ぎるとの意見もあります。


     IASBは、より良い減損テスト、すなわち、のれんが価値を失った場合に、より早期に報告することを企業に要求するような減損テスト(資金生成単位の回収可能額が認識済み純資産簿価を超過する額に着目した「ヘッドルーム・アプローチ」)を識別しようとしました。現行のテストは、投資家に情報を提供していますが、のれんだけではなく、より幅広い資産のセットをテストしています。IASBは、のれんに関する減損損失を、適時かつ合理的なコストで認識するに当たり、IAS第36号の減損テストよりも大幅に効果的な異なる減損テストを設計することは実行可能ではないと結論付けました。新たな開示の要求事項が、取得の業績に関して必要とされる情報を投資家に提供することを期待しています。


  • (2)のれんの償却の再導入
  •  一部の利害関係者は、IASBが2004年までIFRS基準で要求されていた償却を再導入すべきであると提案しました。しかし、償却の長所と短所を検討した上で、IASBの予備的見解は、のれんの償却を再導入するべきではなく、減損のみアプローチを維持すべきであるとされています。のれんの償却によって企業が投資家に報告する情報が著しく改善されるという明確な証拠がないことが理由です。

     のれんの償却再導入について、IASBの予備的見解の詳細は以下のとおりです。


     IASBメンバーが見解に到達する際、検討した主な主張の一部は、以下のとおりとされています。

    償却再導入を支持する主張 減損のみアプローチ維持を支持する主張
    • のれんの減損損失を適時に認識するのに大幅に効果的な減損テストを設計することは実行可能ではない。減損テストはのれんの減損損失を適時に認識するほど堅牢ではないとのIFRS第3号の適用後レビューに対するフィードバックへ対応するため、償却を再導入すべきである。
    • 世界中ののれんの帳簿価額は増加している。償却がなければ、経営者に取得の決定に関する説明責任を適切に問えないこと、償却は財務報告の誠実性と高い評価を維持するのに必要であることの証左である。
    • のれんは耐用年数を確定できる減耗性資産であり、償却再導入がのれんの消費を描写する唯一つの方法である。
    • 減損テストはのれんを直接テストするものではないが、減損損失の認識は、例え遅延するとしても、損失が発生したとの投資家の早期の評価を確認する重要な確認的情報を提供し、経営者の説明責任を問うのに役立つ。のれんの耐用年数を見積ることはできず、いかなる償却費も恣意的である。投資家は償却費を無視し、取得の意思決定の説明責任を経営者に問うために償却を用いることはできない。
    • 減損テストがのれんの帳簿価額を削減するため、厳格かつ単純に適用されていないとの理由のみで償却を再導入すべきではない。経済の性質の変化、未認識無形資産により生成されるより大きな価値などの多くの理由により、のれんは増加し得る。
    • のれんの償却が投資家に提供する情報を大幅に改善する、又は特に取得後の最初の数年で、減損テストの実行コストを大幅に削減するという説得力のある証拠はない。

     IASBは減損のみモデルを維持すべきとの予備的見解に到達しましたが、わずかな過半数(14名のIASBメンバーのうち8名)であることから、IASBは特に当該項目に関する利害関係者の見解を聞きたいと考えています。

     多くの利害関係者は、長年、周知の確固たる見解を保持しており、当該見解に関する周知の主張を単に繰り返すだけでは議論が先に進む可能性は低いため、IASBは、新たな実務上又は概念上の主張を、当該主張の証拠、及びより重きを置くべき主張を識別する提案とその理由と共に提供するフィードバックを歓迎するとしています。

     また、貸借対照表上、のれんを資本合計から控除した金額の表示を要求する提案を開発すべきとしています。


  • (3)減損テストの簡素化
  •  減損テストの簡素化について、IASBの予備的見解は以下のとおりです。

    (a)強制的な年次の減損テストの免除
    • (i)減損の兆候が存在しない場合、のれんについて年次の定量的な減損テストを実施するという要求事項を削除する。
    • (ii)同じ免除を、耐用年数を確定できない無形資産及び未だ使用可能ではない無形資産に適用する。
    (b)使用価値
    • (i)使用価値の見積りに当たり、企業が一部のキャッシュ・フロー、すなわち、将来の未だコミットしていないリストラクチャリング並びに資産の機能の改善又は拡張から生じるキャッシュ・フローを含めることを禁止するIAS第36号の制限を削除する。
    • (ii)使用価値の見積りに当たり、企業が税引後キャッシュ・フロー及び税引後の割引率を用いることを容認する。

3. 無形資産

 IASBの予備的見解は、企業結合において取得した識別可能な無形資産の認識規準を変更する提案を開発すべきではないというものです。


 本ディスカッション・ペーパーに関するコメント期限は、当初2020年9月15日でしたが、covid-19の影響によりコメント期限が延長され、2020年12月31日となりました。


 詳細は、IASBのウェブサイトをご参照ください。

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