IASBが公開草案「金利指標改革-フェーズ2(IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正案)」を公表

2020年05月07日

 IASBは、2020年4月9日、金利指標改革が財務諸表に与える影響に関して企業が投資家に有用な情報を提供するのに役立てるため、公開草案「金利指標改革-フェーズ2(IFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号及びIFRS第16号の修正案)」(コメント期限2020年5月25日)を公表しました。


 IASBは、2018年以来、金利指標改革が財務報告に与える影響を検討しており、本作業を2つのフェーズに分けています。第1フェーズは、2019年9月にいくつかのIFRS基準を修正して完了しており、特定のヘッジ会計の要求事項に対する一時的な例外措置を提供し、かつ金利指標改革から生じる契約上のキャッシュ・フローに関する不確実性が存在する期間に関連する開示を要求しています。


 今回、本プロジェクトの第2フェーズとして、さらなる修正案を公表しています。本修正案は、改革の結果、契約上のキャッシュ・フロー及びヘッジ関係が変更される場合に、財務諸表に影響を及ぼす論点を取扱うことを目的としています。


主な修正案は以下のとおりです。

1.金融資産及び金融負債の条件変更

 企業は、金利指標改革により要求される条件変更について、金融商品の認識の中止や、帳簿価額の修正を行いませんが、代わりに金利指標の変更を反映するように実効金利を更新します。詳細は以下の表のとおりです。

金利指標改革に関連する条件変更(実務上の便法を適用)
  • (a)契約上のキャッシュ・フローの決定の基礎が金融商品の当初認識後に変更される場合、金融資産又は金融負債は条件変更される。この文脈で、たとえ金融商品の契約条件が変更されていない場合であっても、条件変更が生じることはあり得る。
  • (b)企業は、金利指標改革によって要求される金融資産又は金融負債の条件変更を会計処理するため、実務上の便法として、IFRS第9号「金融商品」のB5.4.5項を適用する(キャッシュ・フローの再見積りと同時に実効金利を改訂する)。
  • (c)条件変更が金利指標改革により要求されるのは、(i)金利指標改革の直接の結果として要求され、かつ、(ⅱ)契約上のキャッシュ・フローを決定する新たな基礎が従前の基礎(条件変更の直前の基礎)と経済的に同等である場合に限る。
既存の契約条件による変更 上記(a)の条件変更の記述に該当しないとしても、既存の契約条件が発動される結果、金融資産又は金融負債の契約上のキャッシュ・フローの決定基準が変更され、かつ、その他の特定の条件が満たされる場合、企業は上記(b)の実務上の便法を適用する。
追加的な条件変更がある場合 金利指標改革によって要求されている変更に追加して、金融資産又は金融負債の契約上のキャッシュ・フローの決定の基礎に変更がある場合、企業は最初に、上記(b)の実務上の便法を金利指標改革によって要求されている変更に適用し、次に、IFRS第9号の該当する要求事項を追加的な変更に適用しなければならない。
  • (i)追加的な条件変更の結果、金融資産又は金融負債の認識の中止とはならない場合、企業は5.4.3項を適用して金融資産の追加的な条件を会計処理するか、又はB5.4.6項を適用して金融負債の追加的な条件を会計処理しなければならない(金融資産又は金融負債の帳簿価額を再計算し、条件変更の利得又は損失を純損益で認識する)。
  • (ii)追加的な条件変更の結果、金融資産又は金融負債の認識の中止となる場合、認識の中止の要求事項が適用される。


(IFRS第4号及びIFRS第16号の修正)

 本公開草案は、IFRS第9号の一時的免除を適用する保険会社に、上記と同じ実務上の便法の適用を要求することになるIFRS第4号「保険契約」に対応した修正を行うことを提案しています。 また、企業にIFRS第16号「リース」の第42項を適用して(改訂後のリース支払を割引くことでリース負債を再測定する)、金利指標改革により要求されるリースの条件変更の会計処理を要求することになるIFRS第16号の修正を提案しています。


2.ヘッジ会計

 企業は、ヘッジが他のヘッジ会計の要件を満たす場合、金利指標改革のみを理由としてヘッジ会計を中止しません。詳細は以下のとおりです。

(1)ヘッジ関係の修正

 金利指標改革から生じる不確実性が、ヘッジされたリスク及び(又は)ヘッジ対象又はヘッジ手段の金利指標に基づくキャッシュ・フローの時期及び金額に関して、もはや存在しない時点で、以下の1つ又は複数の変更があった場合のみ、企業は、正式なヘッジ関係の指定を修正します。

  • 代替的な指標金利(契約上、又は契約以外で定められるもの)をヘッジされるリスクとして指定
  • ヘッジ対象の記述が代替的な指標金利に言及するように修正
  • ヘッジ手段の記述が代替的な指標金利に言及するように修正

(2)適格なヘッジ関係及び項目グループの会計処理

 以下の表のとおりです。

適格なヘッジ関係の会計処理
  • IFRS第9号及びIAS第39号「金融商品:認識及び測定」の要求事項は、ヘッジ関係の指定を修正して、代替的な金利指標に基づいてヘッジ手段とヘッジ対象を再測定し、結果的に生じる非有効部分を純損益に認識する場合に適用される。
  • 企業がヘッジ対象の記述を修正する日におけるキャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金の累積額は、ヘッジされた将来キャッシュ・フローが決定される代替的な金利指標に基づいているとみなされる。
  • 中止されたヘッジ関係において、以前ヘッジ対象として指定された金融資産又は金融負債の契約上のキャッシュ・フローの決定基礎に変更がある場合には、中止したヘッジ関係に係るキャッシュ・フロー・ヘッジ剰余金の累計額は、ヘッジ対象となる将来キャッシュ・フローが基礎となる代替的な金利指標に基づいて算定されるものとみなされる。
  • IAS第39号で要求されている遡及的な有効性を評価する目的上、IAS第39号の第102G項(ヘッジの実際の結果が80%から125%の範囲内にないことを理由として、企業はヘッジ関係の中止を求められない)が適用されなくなる時に、ヘッジ対象とヘッジ手段の公正価値変動累計額はゼロにリセットされる。
項目グループの会計処理 ヘッジ関係の修正(上記(1))をヘッジ対象に指定した項目グループに適用する場合、ヘッジ対象は、参照する金利指標に基づいて同一のヘッジ関係内のサブグループに配分され、比例テストは各サブグループに個別に適用されることになる。


(3)リスク要素及び部分の指定

  • 契約以外で定められたリスク要素として指定された代替的な金利指標のうち、指定される日において独立に識別可能ではないものは、代替的な金利指標が、リスク要素として指定される日から24か月以内に独立に識別可能になると企業が合理的に予想した場合に限り、その日において要求事項を満たすとみなします。
  • その後、リスク要素として指定した日から24か月以内に独立に識別可能とはならないと企業が合理的に予想した場合、企業は上記の要求事項の適用を終了し、その再評価した日から将来に向かってヘッジ会計を中止します。

  • 3.開示

     企業は、金利指標から生じる新たなリスク及び企業が代替的な指標金利への移行をどのように管理するかに関する情報を開示します。


    4.発効日及び経過措置
  • 本公開草案は、本修正の発効を2021年1月1日以後開始する事業年度とすることを提案しています。早期適用は認められます。
  • 本公開草案は、以下の(ii)に明記されている場合を除き、本修正をIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って、遡及的に適用することを提案しています。
    • (i)企業は、金利指標改革によって要求される変更のみを理由として、ヘッジ関係を中止していた場合、したがって、その時点で本修正が適用されていたならば、当該ヘッジ関係を中止することを要求されなかった場合に限り、中止したヘッジ関係を復活させます。
    • (ii)企業は、本修正の適用を反映するため過去の期間を修正再表示することは要求されません。しかし、企業が過去の期間を修正再表示できるのは、事後的判断をせずにそれが可能である場合に限ります。

    詳細は、IASBのウェブサイトをご参照ください。

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