第5章 国際財務報告基準(IFRS)の任意適用後の我が国の対応

1. 金融担当大臣の発言

2009年6月の企業会計審議会による「中間報告」、同12月の金融庁による国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)の任意適用に関する内閣府令の整備により、日本においてIFRSの任意適用が可能となった。その後、国内外で下記のような様々な状況変化が生じた。

  • 米国ワークプランの公表(2010年2月)
  • 国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board:IASB)と米国財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board:FASB)がコンバージェンスの作業の数か月延期を発表(2011年4月)
  • 「単体検討会議報告書」の公表(2011年4月28日)
  • 産業界からの「要望書」の提出(2011年5月25日)
  • 米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission:SEC)のIFRS適用に関する作業計画案の公表(2011年5月26日)
  • 未曾有の災害である東日本大震災の発生
    (参考: 金融庁HP、大臣談話・講演等、2011年6月21日"IFRS適用に関する検討について"

上記の「中間報告」以降の変化等を踏まえ、2011年6月に、当時の金融担当大臣より下記のような発言があり、IFRSの強制適用については十分に検討を行うことが必要とされた。

その後、2011年8月に、連結財務諸表規則、中間連結財務諸表規則、四半期連結財務諸表規則が改正され、米国基準の使用期限が撤廃された。

2. IFRS導入に関する企業会計審議会の議論の再開

上記の状況を受けて、IFRS導入に関する企業会計審議会の議論が再開されることとなった。企業会計審議会における審議に当たっては、会計基準に関する技術的議論に限定することなく、より広く、会計基準が、非上場企業・中小企業も含めた多様な企業の経済活動や税法・会社法・各種業規制など周辺に存在する制度、金融・資本市場等に与える影響等をよく認識し、これらを整理した上で、体系的な道筋を示しながら、議論・検討を行うことが適切である、とされた。この考え方に基づき、企業会計審議会では、2011年10月から2012年6月にかけて、以下の11項目について議論が行われた。

  • 我が国の会計基準・開示制度全体のあり方
  • 諸外国の情勢・外交方針と国際要請の分析
  • 経済活動に資する会計のあり方
  • 原則主義のもたらす影響
  • 規制環境(産業規制、公共調達規則)、契約環境等への影響
  • 非上場企業・中小企業への影響、対応のあり方
  • 投資家と企業とのコミュニケーション
  • 監査法人における対応
  • 任意適用の検証
  • 企業会計基準委員会(Accounting Standards Board of Japan:ASBJ)のあり方
  • 国際会計基準設定主体(IASB)のガバナンス
    (出典: 金融庁HP、審議会・研究会等、企業会計審議会、2011年8月25日"今後の議論・検討の進め方(案)"

また、海外における取組みも参考にしつつ、海外視察を通じた国際的状況の的確な把握を行い、議論・検討を進めていくことが適当であると考え、企業会計審議会では、海外視察が2011年11月から12月にかけて、欧州(フランス・ベルギー・ドイツ)、北米(アメリカ・カナダ)、アジア(中国・韓国)で実施され、2012年2月に海外調査報告書が公表された。

3. 「中間的論点整理」の公表

2011年6月より行われてきたIFRSに関する議論を受けて、企業会計審議会はこれまでの主な議論を整理するため、2012年7月に「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方についてのこれまでの議論(中間的論点整理)」を公表した。IFRSについて最終的な結論が出ているわけではなく、さらに審議を継続して議論を深める必要がある、とした上で下記のとおりまとめている。

「概括的に整理すれば、わが国の会計基準は、これまでの努力の結果として高品質かつ国際的に遜色のないものとなっており、欧州より国際会計基準と同等であるとの評価も受けているが、今後とも、国際的な情勢等を踏まえ、会計基準の国際的な調和に向けた努力を継続していく必要がある。

その際には、引き続き、以下で述べる連単分離、中小企業等への対応を前提に、わが国会計基準のあり方を踏まえた主体的コンバージェンス、任意適用の積上げを図りつつ、国際会計基準の適用のあり方について、その目的やわが国の経済や制度などにもたらす影響を十分に勘案し、最もふさわしい対応を検討すべきである。また、国際会計基準の開発においては、国際的な連携も念頭に置きつつ、積極的に貢献するとともに、わが国としての考え方については的確に意見発信していくことが重要である。」

「中間的論点整理」に記載の項目は下記のとおりである。

4. 「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」

上記の中間的論点整理に基づき、企業会計審議会・企画調整部会合同会議は、引き続き議論を行い、関係者における今後の対応に資する観点から、これまでの議論や国内外の動向等を踏まえ、IFRSへの対応のあり方について、当面の方針をまとめ、2013年6月19日に、「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(以下、「当面の方針」)を公表した。

「単一で高品質な会計基準の策定というグローバルな目標に向けて、国際的に様々な動きが見られる中で、我が国がこれにどのように関わっていくのかという観点から、今後数年間が我が国にとって重要な期間となる。企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議としては、このような認識に基づき、まずは、IFRSの任意適用の積上げを図ることが重要であると考えられることから、IFRSへの対応の当面の方針として、「任意適用要件の緩和」、「IFRSの適用の方法」及び「単体開示の簡素化」について、以下の通り、考え方を整理することとした。」とし、具体的な対応について説明している。

  • IFRSへの対応のあり方に関する基本的な考え方
  • 任意適用要件の緩和
  • IFRSの適用の方法
  • 単体開示の簡素化

なお、IFRSの強制適用の是非等については、「未だその判断をすべき状況にないものと考えられる」として、「今後、任意適用企業数の推移も含め今回の措置の達成状況を検証・確認する一方で、米国の動向及びIFRSの基準開発の状況等の国際的な情勢を見極めながら、関係者による議論を行っていくことが適当である」と述べている。

5. 自民党「国際会計基準への対応についての提言」

上記の「当面の方針」の公表とほぼ同時期(2013年6月13日)に、自由民主党の政務調査会金融調査会の企業会計に関する小委員会が、「国際会計基準への対応についての提言」(以下、「提言」)を公表した。

「これまでの議論を踏まえ、IFRSに関する経緯と現状について概括した上で、IFRSへの今後の対応に関する基本的考え方及びその具体的方向性について提言を行う。」としている。

「提言」に記載されている項目は下記の通りである。

  • 国際会計基準に関する経緯
  • 国際会計基準に関する現状
  • 国際会計基準へのわが国の対応に関する基本的考え方
    • 具体的な対応
    • 姿勢の明確化
    • 任意適用の拡大
    • わが国の発言権の確保
    • 企業負担の軽減

なお、強制適用の是非やタイムスケジュールの決定に関して、またIFRSの任意適用企業数の目標に関して、下記の記載がなされている。

  • 安倍首相が表明した「集中投資促進期間」のできるだけ早い時期に、強制適用の是非や適用に関するタイムスケジュールを決定するよう、各方面からの意見を聴取し、議論を深めることが重要である。
  • モニタリング・ボードのメンバー要件として求められている「IFRSの顕著な適用」を実現するために、この要件の審査が行われる2016年末までに、国際的に事業展開をする企業など、300社程度の企業がIFRSを適用する状態になるよう明確な中期目標を立て、その実現に向けてあらゆる対策の検討とともに、積極的に環境を整備すべきである。
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