1973年から活動を開始した国際会計基準委員会(International Accounting Standards Board:IASC)とその成果物である国際会計基準(International Accounting Standards:IAS)は、2001年に発足した国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board:IASB)へ引き継がれ、その作成する基準は国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)と呼ばれることになった。21世紀に入り、欧州連合(European Union:EU)における適用開始を契機に、IFRSを上場企業に強制適用又は任意適用する国々が110カ国を超えることとなり、IFRSはグローバルな会計基準への大きな脱皮を遂げた。世界最大の資本市場を有する米国が、IFRS適用へと急速に大きく舵を切ることになり、真のグローバルな単一の会計基準へと変遷していくその過程には、数多くのマイルストーンが存在している。
1. 証券監督者国際機構(IOSCO)による国際会計基準(IAS)の承認
証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions:IOSCO)は、1987年9月にIASCの諮問グループに参加し、会計基準の国際的統一化のための第一歩としてIASCと共同で「財務諸表の比較可能性」プロジェクトを開始させた。本プロジェクトは、IOSCOのイニシアティブのもとにIASを国際的な資本市場で用いられることを目的とした一連の改善及び拡張のための活動の重要な第一歩として位置づけられており、財務諸表の比較可能性を高めるため、会計処理の選択肢を削除するという内容であった。IOSCOは1988年11月、メルボルンで開催された年次総会で、国際的なディスクロージャー制度の統合に対し積極的に取り組む方針を明らかにするとともに、相互に承認し得るIAS作りを行うIASCの活動を支持する声明文を公表した。IOSCOがIASの承認を決定すれば、IASが国際的な資本市場で用いられる可能性が強くなる。このため、IASは現実の問題としてにわかに脚光を浴びるようになり、法的強制力を有しないIASCにとって、大きな転換点となった。
1993年11月にオスロで開催された理事会で10のIASの改正が一括承認されて、6年半に及ぶ「財務諸表の比較可能性」プロジェクトは完了した。
しかし、IOSCOによるIASの承認はなかなか実現しなかった。IOSCOの第1作業部会は、1993年8月に、IOSCOが国際的な会計基準に必ず含まれなければならないと考える40の項目(コア・スタンダード)とIASCによる基準設定の現状を述べた書簡を、IASCに送付してきた。書簡では、IOSCOが受け入れるためには改訂が必要とされるIASが示されたほか、金融商品、一株当たり利益、無形固定資産などIASCで進行中のテーマや、期中財務報告、廃止事業、資産の減損などIASCで未だ取り上げていない項目が含まれていた。
その後、IASCはIOSCOと交渉を続けた結果、1995年のIOSCO専門委員会及びIASC理事会による共同プレス・リリースが公表され、以降、IASCはコア・スタンダードの完成に向け、精力的に活動を行った。
1999年12月のIAS第39号「金融商品: 認識及び測定」の完成で、IOSCOの要請するコア・スタンダードの最も困難な部分は完了していたが、最後の基準となるIAS第40号「投資不動産」が2000年3月のサンパウロ会議で承認され、コア・スタンダードの作成が完了した。
IOSCOは、2000年5月17日のシドニーでの年次総会の初日に、IASの30の基準を財務諸表の作成・表示の基礎となるコア・スタンダードとして承認し、外国企業の各国での上場にIASを使用することを認めるよう勧告した。
- 決議の対象は、多国籍の発行体がその本国以外で行う資金調達、すなわちクロス・ボーダーの資金調達に関するものであり、各国の国内基準については基本的に各国の国内の問題、すなわち各国の基準設定主体が作成する基準が利用されることを前提としている。
- 対象となっているIASCの基準が30の基準及びそれに付随する解釈指針に限られており、これに含まれていない基準については、今回の決議の対象とされていない。
- 各国の監督当局は、必要に応じ、調整、開示、解釈といった追加的措置を取り得ることが明記されている。この追加的措置の内容は以下の通りである。
- 調整(reconciliation): IASの下で適用される方法と異なる会計処理方法を適用する場合の影響を示すために、特定の項目に対する調整を求めること。
- 開示(disclosure): 財務諸表の表示あるいは注記において追加的開示を求めること。
- 解釈(interpretation): IASの中に規定された特定の代替処理の使用について、あるいはIASが不明確又は何ら規定していない場合における特定の解釈について明示すること。
さらに、受入国当局の判断により、適用免除(waiver)という措置を取り得ることが記載されている。これについては、一部の国々から必ずしも排除する必要はないのではないかとの主張があったため入れられたものであるものの、基本的には認めるべきものではないというのがコンセンサスである。
コア・スタンダードとして承認された30の基準と関連する解釈指針は以下の通りである。なお、IASCが3月に承認したIAS第40号「投資不動産」は、IOSCOの決議案が3月のIOSCO専門委員会で検討されたことから、時間的に間に合わず、下記に含まれていない。
IASコア・スタンダード一覧
IAS 1 | 財務諸表の表示 |
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IAS 2 | 棚卸資産 |
IAS 4 | 減価償却の会計 |
IAS 7 | キャッシュ・フロー計算書 |
IAS 8 | 期間純損益、重大な誤謬及び会計方針の変更 |
IAS 10 | 後発事象 |
IAS 11 | 工事契約 |
IAS 12 | 法人所得税 |
IAS 14 | セグメント別報告 |
IAS 16 | 有形固定資産 |
IAS 17 | リース |
IAS 18 | 収益 |
IAS 19 | 従業員給付 |
IAS 20 | 国庫補助金の会計及び政府援助の開示 |
IAS 21 | 外国為替レート変動の影響 |
IAS 22 | 企業結合 |
IAS 23 | 借入費用 |
IAS 24 | 特別利害関係の開示 |
IAS 27 | 連結財務諸表並びに子会社に対する投資の会計処理 |
IAS 28 | 関連会社に対する投資の会計処理 |
IAS 29 | 超インフレ経済下の財務報告 |
IAS 31 | ジョイント・ベンチャーに対する持分の財務報告 |
IAS 32 | 金融商品―開示及び表示― |
IAS 33 | 1株当たり利益 |
IAS 34 | 期中財務報告 |
IAS 35 | 廃止事業 |
IAS 36 | 資産の減損 |
IAS 37 | 引当金、偶発債務及び偶発資産 |
IAS 38 | 無形資産 |
IAS 39 | 金融商品―認識及び測定― |
関連する解釈指針一覧
IAS 1 | SIC 6 | 既存ソフトウェアの修正コスト |
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SIC 6 | IASを主たる会計基準として初めて適用した場合の取扱い | |
SIC 18 | 処理の一貫性―認められる代替処理― | |
IAS 2 | SIC 1 | 処理の一貫性―棚卸資産の原価配分方式 |
IAS 4 | SIC 14 | 有形固定資産―減損または滅失に対する補償 |
IAS 7 | SIC 15 | オペレーティング・リース―インセンティブ |
IAS 8 | SIC 10 | 政府支援―営業活動に特に関連しないもの |
IAS 10 | SIC 7 | ユーロの導入 |
SIC 11 | 外国為替―著しい通貨の引下げに伴う損失の資本化 | |
IAS 22 | SIC 9 | 企業結合―買収または持分プーリングの区分 |
IAS 23 | SIC 2 | 処理の一貫性―借入費用の資本化 |
IAS 27 | SIC 12 | 連結―特別目的事業体 |
IAS 28 | SIC 3 | 関連会社との取引に係る未実現損益の消去 |
IAS 31 | SIC 13 | 共同支配事業体―共同事業出資者による非貨幣拠出 |
IAS 32 | SIC 5 | 金融商品の分類―条件付き決済条項 |
SIC 6 | 自己株式(再取得した自己資本)の表示 | |
SIC 17 | 資本―資本取引のコスト |
IOSCOの承認に付随する評価報告書では、更に改善を要する事項としてIASCが今後取り組むべき項目が列挙されている。これらについては、組織変更後の国際会計基準審議会(IASB)に引き継がれ、更なる基準の改善が図られることとなった。