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日本公認会計士協会と理化学研究所との共同研究「AI 等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」について

掲載日
2020年11月06日
 日本公認会計士協会(以下「当協会」という。)は、国立研究開発法人理化学研究所(以下「理研」という。)と共同で「AI等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」をテーマとした研究を実施しています。
 これまで、複数の監査法人からのご協力を頂いた上での調査や、2020年9月11日に開催した第41回研究大会における研究発表などの活動を行っていましたが、このたび本共同研究の最終報告に向けた方向性が定まりましたので、以下のとおりお知らせいたします。

 本共同研究の実施に至った背景は以下のとおりです。
・ 人工知能(AI)の技術が著しく発展を遂げている一方で、AIにも不得手分野は存在し、また、社会実装に当たっても
  課題が存在するにもかかわらず、「AIは万能である」というような論調が散見されている。各職種において、「どの
  領域をAIに代替させるか」及び「どの領域に人間が注力すべきか」を考えることは、適切な労働政策・教育政策を検
  討するに当たり重要であると考えられる。
・ 人工知能(AI)をはじめとする技術進歩は、我々の社会環境に大きなインパクトを与えており、公認会計士業界もそ
  の例外ではない。こうした技術進歩は、公認会計士の実施している業務の効率化・高度化に資すると考えられる一方
  で、これまで実施していた手続を今一度見つめ直して、テクノロジーに代替することで更なる効率化を図るべき領
  域、会計・監査の専門家としてより注力すべき領域、さらには次世代の公認会計士に求められるスキルセットを考え
  ることが求められていると考えられる。

 本共同研究では、公認会計士業務のうち、テクノロジーの活用によって業務効率の向上や価値の向上が見込まれる領域を学術的に明らかにすることにより、公認会計士業務の効率化と高度化に向けた方向性を示すことを目的として、複数の監査法人のご協力を得た上で、以下の調査を行いました。

1.調査概要
 ① 対象とする業務:監査業務に限定(コンサルティング、税務等は対象外)
 ② 調査手法:複数の監査法人に所属する会員・準会員に対して、当協会及び理研が作成した質問への回答を求める。
 ③ 調査対象:監査業務に従事する会員・準会員(監査責任者101名、主査99名及び補助者195名)
 ④ 実施時期:2019年9月~2020年3月 回答数:395(回収率:86%)

2.分析手法
 ① 監査において主査及び補助者が実施する業務をそれぞれ10項目に分類した上で、理研のAIPセンターにおいて、
   それらがAIに代替される確率を算出する。
 ② 監査法人へのアンケート調査を通じて、「主査及び補助者の上役にあたる監査責任者及び主査が、人事評価上
   これらの10項目の業務要素をどの程度重要視しているのか」について、コンジョイント測定法(※)を用いて
   分析する。
  ※ 全体の効用を属性ごとの部分効用に分解し、どの属性が重視されているかを判別するための手法で、政策評
    価・環境経済学・マーケティングなど様々な分野で利用されている。

3.結果概要
 ① 主査の業務※1
  ・ 主査が実施する業務については、AIへの代替可能性が低いとされる業務が人事評価上重要と認識されている
   傾向にあることが明らかとなった。
   ✔ 主査が実施する業務については、AIPセンターにおける代替可能性に関する評価結果と、部下の人事評価
     に関する質問への回答の分析結果との間に明確な相関関係が識別された。
 ② 補助者の業務※2
  ・ 補助者が実施する業務に関しては、AIPセンターにおける評価結果と部下の人事評価に関する質問への回答の
   分析結果との間に主査ほど明確な相関関係は示されなかった。
   ✔ 補助者が実施する業務については、主査が実施する業務と比較して、AIへの代替可能性が高い領域が一定
     程度識別された。具体的には「証憑突合、帳簿突合及び分析的手続」のような手続の代替可能性は相対的
     に高いという結果が出た。
   ✔ 一方で、部下の人事評価に関する質問への回答の分析において、「証憑突合、帳簿突合及び分析的手続」
     については、人事評価上一定程度の重要性があるとの結果が出るなど、AIPセンターにおける代替可能性に
     関する評価結果と異なる傾向が識別された。

    ※1 主査の役割は、被監査会社及び監査責任者と緊密に連絡を取り、監査チームを掌握し、効率的に監査
       を実施することにある。これには、監査責任者の監査の基本的な方針を受けた監査計画の立案、補助
       者への作業指示、監査調書の査閲・整理などが含まれる。
    ※2 補助者の役割は、与えられた任務に基づき計画的に監査手続を行うことにある。これには、実施した
       監査手続と所見を監査調書に記載し報告することなどが含まれる。

4.今後の展望
 現時点においては、主査及び補助者が実施する業務に関するAIへの代替可能性の評価結果と監査法人における人事評価の傾向の相関関係の分析に留まっています。今後は、今般の調査結果に、実際の労働時間や報酬情報といった定量的情報を加えて、監査法人の人的資源を代替可能性が高い領域から低い領域にシフトした場合の生産性変化を測定する予定です。また、今般のアンケート調査においては、「将来的な公認会計士業務の展望に関する意識調査」を合わせて実施していますので、その結果の分析作業も行う予定です。

5.研究担当者
[理研]
星野 崇宏 慶應義塾大学経済学部教授・理研AIPチームリーダー
中村 元彦 千葉商科大学大学院会計ファイナンス研究科教授
上野 雄史 静岡県立大学経営情報学部准教授
加藤  諒 神戸大学経済経営研究所講師
[当協会]
結城 秀彦 監査・保証及びIT担当常務理事
 
【本件についての問合せ先】
日本公認会計士協会 業務本部 倫理・監査グループ
電子メール:rinrikansa@jicpa.or.jp 
FAX:03-5226-3355
TEL:03-3515-1166
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