吉川和美さん(吉川公認会計事務所所長)

Q公認会計士試験合格後の略歴を教えてください

 2次試験に合格した1995年は大変な就職難で、監査法人以外の就職の選択肢も少ない時代でした。合格通知はもらったものの、すぐに仕事は見つからず、2か月専門学校でアルバイトしたのち個人事務所に入所、記帳代行と個人の確定申告をメインとするキャリアからスタートしました。
 就職状況好転後に入所した大手監査法人では、ようやく上場企業や大手企業の監査ができることが本当に嬉しく、ここで様々な業種の監査業務を経験しました。その後当該監査法人は、粉飾決算問題等により解散することなったため、担当していた会社と一緒に2007年に有限責任監査法人トーマツにうつり、主任としてIPOを実現しました。
 トーマツは希望したことを経験させてくださる懐が深い法人でして、希望通り海外監査人と連携した監査主任を経験、アメリカ中国タイベトナムミャンマー等あちこち出張させていただきました。また、これからの時代はベンチャーが変えていくだろう、と、トーマツベンチャーサポートに参画し、東京都、京都府等の自治体から案件を受託する形で女性ベンチャーメインの支援をはじめました。今でこそ女性起業家に特化したベンチャーキャピタルや支援プログラムが存在しますが、当時は、事業拡大を目指す女性起業家などいない、と、いうのが常識でした。昭和ではなく、平成終わりごろの話です!そんなはずはない、と、実際始めてみると、すばらしい女性起業家が集まり、数千万以上の資金調達者が出るなど成果も出つつありました。
 しかしその過程で、監査法人という安全なところから自分のできる範囲の「支援」をしていることの問題意識と自らの経営に関するスキル不足を感じるようになり、もう一段チャレンジしてみようと、社会課題の解決と事業成長の両立にチャレンジする農業ベンチャーに2019年から関与。取締役に就任し、2022年現在、手を動かす業務も含め若い方々に交じって日々奮闘するに至ります。
 改めて振り返ってみると、社会によいインパクトを与える、という自分のやりたいことをさせていただいていますし、経営する会計事務所業務では以前の経験がベースとなっているなど、経験してきたことはすべて貴重だったと思っています。

Q会計・監査の知識が現在の業務にどのように活かされているか教えてください

 新型コロナウィルスはバックオフィス業務の在り方を大きく変えました。経理やおそらく監査も、作業自体は自動化による省力化やアウトソーシングされる動きが止まらないでしょう。その環境の中、経験した監査業務では、日々の数値や決算の数字がどのように作られているのかという生成過程と、アウトプットである実際の数値の意味の両方を学ぶことができました。でてきた数字を分析して使っていくのは当然として、生成過程を理解したうえで数字をいかに経営に使えるよう生成していくのかを考えられるのは、会計士の強みでありもっとやっていくべきことだと思っています。
 その他、監査業務での経験や業務へのスタンスが私自身の信頼につながっていると感じることが多いです。監査はしていなくても、監査基準でいうところの、職業的専門家として、専門能力の向上と実務経験等から得られる知識の蓄積に努め、常に公正普遍の態度(=精神的独立性)を保持し、職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持する、という感覚が染みついているようで、会計士という資格に加えて、名前に恥じない行動をしようという態度をご理解くださっているように思っています。

Qキャリアビジョンを教えてください。また、キャリアを実現するための課題があれば教えてください

 私のライフワークは、社会的によいインパクトを与える活動を行うことと女性活躍推進です。今話題のインパクト投資や、企業の意思決定に参画することによる社会的インパクトについても関心があり、何らかの形で従事していきたいと考えています。女性会計士の活躍推進については、キャリア支援のため女性会計士専門委員会で10年以上活動を行ってきました。長時間労働とハードワーク、監査法人や事業会社で昇進する道以外に、自分らしいやり方で後進の方々に「こういうやり方もある」といえる道を作れるよう、今後も研鑽とチャレンジを続けていきたいと考えています。

Q趣味でやっていることがありましたら教えてください

 最近、小学校卒業以来のピアノを始めました。いわゆる「大人のピアノ」です。以前は普通にできていた、右手と左手を同時に弾くというのがなかなか難しいですし、フェルマータやダカーポといった記号を数十年ぶりに思い出し、頭が沸騰する思いですが、鍵盤を押して音を鳴らすという活動はとても楽しいです。目標は、いつか、下手なりにショパンを弾くことです。

Q座右の銘は何ですか

 大前研一さんの「人間が変わる方法は3つしかない。(以下略)最も無意味なのは、『決意を新たにする』ことだ。」です。これに「迷ったら実行」「人生を楽しむ」を加え、何かを変えようと思ったときは楽しみながら行動するようにしています。

Q公認会計士を目指した経緯を教えてください

 受験専門学校のパンフレットに掲載されていた、先輩女性会計士の体験談でした。仕事のやりがいだけではなくプライベートでは休みがとりやすく、海外旅行先でミステリーを読むのが楽しみです、といった内容で、当時、なんと素晴らしい資格だと思った記憶があります。それからもう四半世紀になりますね。もし、私の拙記事を読んで会計士を目指そうと思った女性会計士の卵がいらっしゃいましたら幸いです。

Q公認会計士試験志望者へのメッセージをお願いします

 公認会計士は法律で定められた監査及び会計の専門家であり、国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする、一生モノの職業です。働くフィールドも、監査法人、コンサルティング会社、一般事業会社、非営利組織等多様化していますし、開業も、会計事務所やコンサルティングにとどまらず、自分の事業を起業する会計士も増えてきました。自分のやりかた次第でいかようにでもなる、基本、アップサイドしかない資格だと思います。皆さんがぜひ合格され、お仕事でお会いできるのを楽しみにしています。

Q女性会計士へのメッセージをお願いします

 会計士という職業は、ライフスタイルの変化に比較的対応しやすいですし、バリバリやるのも「まったり」やるのも自由と、働き方の自由度が高い職業です。働くフィールドも多様化しています。試験を突破し会計監査や経営に知見があり、厳しいトレーニングを受けた(私も含めた)女性会計士のみなさんにはもっと可能性があると信じています。社会をよりよくするため、一緒に貢献していきませんか?

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