日本公認会計士協会では、「会計基礎教育推進会議」を設置し、会計リテラシーの普及を推進する活動を進めています。
その活動の方向性、当面実施すべき取組を「会計基礎教育の推進に関する基本方針」として取りまとめています。
会計基礎教育の推進に関する基本方針(2020年5月28日改定)
はじめに
日本公認会計士協会では、広く国民が社会で活躍していくための会計の基礎的な素養(会計リテラシー)を身に付けるための会計基礎教育の推進を目的として、2016年7月開催の総会において会則変更を行い、会計基礎教育の充実に関する事業を行うことを明確にするとともに、その推進のために会計基礎教育推進会議を設置した。
会計基礎教育推進会議は、日本公認会計士協会が行う会計基礎教育の推進の基本的な考え方・方向性と、当面の実施すべき取組の内容について検討を行い、会則第211条第2項第1号に基づき、次に掲げる事項を「会計基礎教育の推進に関する基本方針」として定めた。
1 会計基礎教育の推進に関する基本的な考え方・方向性
- (会計基礎教育の現状と協会の役割)
- 会計は、経済活動を記録・計算することにより実態を把握し、その結果を利害関係者に報告するものであり、国民が、経済活動を正しく理解し、広く社会で活躍するためには、会計リテラシーを身に付けることが必要である。
諸外国においては若年段階から会計について主体的に学ぶ場が設けられている例もあるが、我が国においては、広く国民に会計リテラシーを身に付けるための教育の機会が乏しい状況にある。
日本公認会計士協会は、これまでにも、小中学生対象の「ハロー!会計」などを通じて会計基礎教育の普及に努めてきたところであるが、会計専門家である公認会計士の職業専門家団体として、会計基礎教育の一層の充実に向けて、中心的な役割を果たしていかなければならない。 - (会計基礎教育の推進に関する基本的な方向性)
- 広く国民全体が会計リテラシーを身に付けるためには、若年段階で教育の機会が提供されることが望ましい。その意味で、初等中等教育段階における機会の充実が必要であることは論を待たない。しかし、自ら社会生活を送ることとなったり、ビジネスに携わるようになったりする際に、改めて必要な会計の必要性・有用性を想起させる機会もまた、必要である。
そのため、日本公認会計士協会としての会計基礎教育の推進は、その対象を若年段階に限定しない。会計リテラシーを身に付けるために、初等中等及び高等の各教育段階並びに成人の各段階で必要とされる教育の機会の充実を目指していく。 - (社会貢献としての会計基礎教育の推進)
- 日本公認会計士協会では、従来から、公認会計士の後進育成についての活動を積極的に行ってきた。公認会計士の後進育成に関しては、ある程度若年段階から会計又は公認会計士への興味・関心を惹起させ、会計の専門的な学習へ誘導することを足掛かりとして展開されてきた。
会計に対する興味・関心の惹起という点では、会計基礎教育の推進と公認会計士の後進育成には、手法として重なり合う部分もある。しかしながら、国民全体への会計リテラシーの普及と専門家の育成とでは目的が明確に異なり、これを混同してはならない 。
この基本方針に沿って進められる会計基礎教育の推進は、社会の重要なインフラである会計を広く国民に普及させ、持続可能な社会の構築に貢献しようとするものである。 - (SDGs達成への貢献)
- 社会の持続可能性は適切な経済活動を通じて維持される。経済活動の前提となる会計リテラシーの普及は、国際連合によって提唱されているSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献することができる。
また、SDGsでは、目標4として「質の高い教育をみんなに」が設定されている。会計リテラシーの普及は、その目標達成に特に貢献できるものであり、これを明確にして取り組んでいく。
2 当面実施すべき取組の内容
日本公認会計士協会による会計基礎教育の推進は、国民への会計リテラシーの普及を目指すものであり、これは一朝一夕に実現するものではない。様々な取組を着実に実施していく必要があるが、当面実施すべき取組の内容を以下のとおり定める。
- (1)初等中等教育段階における教育コンテンツの開発
- 初等中等教育段階のうち、中学校及び高等学校での教育内容を定めた学習指導要領が改められ、中学校では2021年、高等学校では2022年から実施される。
文部科学省が公表した「学習指導要領解説」では、中学校の社会科(公民的分野)、高等学校の公民科(「公共」及び「政治・経済」)において「会計情報の活用」が取り上げられ、中学校及び高等学校の教育現場で会計に言及される可能性が高まった。
そのため、初等中等教育段階に関しては、特に中学校及び高等学校において「会計情報の活用」を題材とし得るよう、教員向けのコンテンツを開発し、これを用いた周知を中心に活動する。 - (2)「会計リテラシー・マップ」の検討・作成
- 広く国民全体へ会計リテラシーを普及させるための前提として、生涯の「どの段階で、何を学ぶか」を体系的に整理する必要がある。また、そのようにして整理した体系に沿って、会計や教育の専門家ではない者でも容易に理解できるよう、全体像を概観することができるイメージ資料を作成する必要がある。他の分野においても、体系的に整理した内容又はそのイメージを「リテラシー・マップ」として取りまとめることが一般的となっており、会計基礎教育に関しても「会計リテラシー・マップ」の作成が普及促進に向けて効果を持つものと考える。
前述のとおり、「学習指導要領解説」において中学校及び高等学校で取り上げるべき内容が示されており、これを軸として、その他の段階で学ぶべき内容を含めて「会計リテラシー・マップ」を作成する。
なお、「会計リテラシー・マップ」の作成とその後の活用に当たっては、会計リテラシーを理解することで一層教育効果が高まると考えられる隣接する教育分野(金融経済教育、消費者教育等)との関連を考慮する。 - (3)「会計基礎教育推進協議会(仮称)」の組成
- 会計基礎教育を推進していくための方策は日本公認会計士協会の活動だけで成り立つものではない。会計基礎教育を社会的に推進していくためには、協会だけではなく、関係行政機関や教育関係者、関係団体、学界等と連携し、それぞれの有する知見を結集して取り組んでいくことが必要である。
そのため、2021年7月までに、日本公認会計士協会が主導し、関係行政機関、教育関係者、関係団体、学界等の参画を得て、会計基礎教育の推進を協議・検討する協議体として「会計基礎教育推進協議会(仮称)」を設置する。 - (4)各段階における推進・普及活動の検討
- 前述したように、日本公認会計士協会としての会計基礎教育の推進は、初等中等及び高等の教育段階並びに成人の各段階で必要とされる教育の機会の充実を目指していく方向であることから、各段階における具体的な推進・普及活動について、「会計基礎教育推進協議会(仮称)」での将来の議論に資する枠組みともなるよう、検討する。
初等中等教育段階については、前述のとおり、新学習指導要領による教育課程の実施に向けて、教員向けのコンテンツを開発・周知活動を進める。
高等教育段階については、大学での経済学・商学・経営学等の系統の課程以外の系統の学部学生に対して、近い将来に経済社会を担うこととなるという観点で、必要な会計リテラシーの普及方法の検討を行う。
成人段階については、国民が社会生活を送る観点や社会活動に参加する観点から、必要な会計リテラシーの普及方法の検討を行う。 - (5)会計基礎教育に関する情報発信
- 会計基礎教育の有用性・重要性、日本公認会計士協会としての会計基礎教育の推進は、未だ広く社会に認知されているとは言い難い。そのため、必要な情報発信をしていく必要がある。
日本公認会計士協会会員に対しては、この基本方針及びこれに基づいて実施される事業についての情報を発信し、公認会計士業界としてのコンセンサスを形成する。
また、対外的には、媒体を用いた広報活動を行うほか、隣接する教育分野における様々な活動との連携やその関係者との意見交換、シンポジウムなどを通じて、浸透を図る。 -
制定・改定の履歴