私のIFACにおける役割は、女性たちに「ここには仲間がいる」「一人ではない」と気づかせることだと考えています。支援してくれる人は大勢います。私自身、素晴らしい男性同僚やリーダーに励ましと支援をいただき、非常に幸運でした。あなたを傾聴し導き、貴重な助言を共有してくれる人を男女問わず探してください。物事の進め方には様々な方法があります。私たちは女性たちに、進んで手を挙げ、声を上げるよう促したいのです。ご存知のように、現在のIFACには強力な女性の存在感があります。今年は理事に男性が若干多めですが、その数は変動し、過去には女性が多数派だった年もあります。私たちはこの会計士業界に女性が参画することを強く支持しています。このような変化はあらゆる経済圏で見られ、私たちはこの取組を継続していきたいです。
IFAC副会長 Taryn Rulton(タリン・ラルトン)氏 × IFAC理事 觀 恒平氏 特別インタビュー
2025年10月21日、日本公認会計士協会(JICPA)にて、国際会計士連盟(IFAC)副会長のタリン・ラルトン氏と、IFAC理事の觀 恒平氏による特別インタビューを行いました。 今回のインタビューでは、グローバルな会計士業界が直面する課題や今後の展望、そしてラルトン氏が抱く思いについて語っていただきました。

IFAC創立50周年と次期IFAC会長就任に向けて
觀)
次期IFAC会長としての目標と優先事項、特にIFAC創立50周年を迎えるにあたって、どのような考えをお持ちですか?
ラルトン)
ご質問ありがとうございます。IFACの50周年は2027年ですが、この50年で会計の世界は大きく変わりました。50年前の世界を思い返すと、インターネットもデスクトップコンピュータも存在せず、もちろん携帯電話などありません!職場における女性の役割も現在とは大きく異なっていました。したがって、今後も状況が大きく変化し続けることは当然予想されるでしょう。
会長としての私の役割は、その未来への準備を支援することだと考えています。これまでの取組を基盤とし、IFACが会計プロフェッションの声を世界的に代表する存在となるよう発展することに貢献したい。このことにより変革を推進し、我々が活動する様々なコミュニティにおける会計プロフェッションの影響力を強化できます。サステナビリティ報告への適応とAI活用の習得支援を通じて、目標達成を目指します。若手会計士や学生にとって、AIは既に日常の一部であり自然な存在ですが、長く働いてきた経験豊富な会計士にとっては、AIマインドセットは大きな変化となる可能性があります。彼ら・彼女らを支援し、その変化に対応できるよう導く必要があります。したがって、業務のさまざまな側面において、AIやテクノロジーをどのように組み込んでいくかを理解することも、非常に重要になってきます。また、会計士が現在担っている役割と将来担うであろう様々な役割を他者に示すことも必須です。これにより、我々の職業の発展と、この職業に就きたいと考える人々の増加に貢献できると考えています。
觀)
それは素晴らしい、私たちには非常に明るい未来がありますね。
ラルトン)
ええ、間違いありません。
女性リーダーとして
觀)
次に、IFACにおける女性リーダーとしての役割についてお伺いしたいと思います。特に若手プロフェッションに向けて、IFAC史上4人目の女性会長に至るまでの道のりやチャレンジについて、ご意見を伺えますか?
ラルトン)
男性中心の環境で多く働いてきた他の女性リーダーたちと似た境遇だと思います。それが私たちの原点であり、IFAC設立当時はリーダー職に就く女性はほとんどいませんでした。しかし状況は変わりつつあり、この職に就きたいと考える女性が増えています。女性の働き方や人との関わり方は、男性のアプローチとはしばしば異なります。多様な視点や手法が有益であることは理解しつつも、その差異を経験することは女性にとって困難な場合もあります。会議室で「浮いた存在」と感じるのは居心地が悪いものです。

また、本日、JICPA女性リーダーと面談する機会をいただきました。彼女たちとの時間を過ごせて感謝しています。彼女たちと直接話し、経験を聞き、彼女たちが取り組んでいる素晴らしい活動をどう支援すべきか議論できたことは大変有意義でした。
多様性がIFACにもたらす強み
觀)
これはジェンダーだけの問題ではありません。IFACの強みは、多様性にこそあると確信しています。私がIFAC理事会に加わった時、大小さまざまな国々からのメンバー、そして多様なバックグラウンドを持つ人々が集まっているのを目にしました。多様性がIFACにもたらす強みについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?

ラルトン)
もちろんです。ご指摘のとおり、IFAC理事会には実に多様な優れたスキルセットが集まっています。それが私たちの強みです。個人が全てに精通する必要はなく、そもそも一人の人間が全てを網羅することは不可能です。私たちの強みは他者と協働することにあります。自らの見解とは異なる意見に耳を傾け、それらを共に発展させて、より良く、より包括的な成果を生み出すことです。なぜなら私たちの世界は、男性だけ、女性だけ、一つの文化だけというものではありません。だからこそ、私たちの世界全体と、共に働く人々を代表する必要があります。私たちの大きな強みのひとつは、互いから学び合い、信頼を育み、他者の視点に理解と関心を寄せられることです。そして、IFAC理事会における強みのひとつは、互いを尊重し、異なる見解を尊重することにあると私は考えます。
若手プロフェッションへのメッセージ

觀)
それは素晴らしいですね。特に若手プロフェッションにとって有益だと思います。日本では若手プロフェッションが増加傾向にあります。これは素晴らしいことですが、AIやIT・デジタル技術など、世界では多くの変化が起きており課題も沢山あります。若手プロフェッションに向けて、アドバイスをいただけますか?
ラルトン)
会計士であれば、大きなチャンスがあると思います。会計士の資格は、キャリアを成長させ選択肢を広げる素晴らしい方法を提供してくれます。私自身やこれからこの職に就く方々にとって、会計士資格は扉を開く鍵となります。
会計士資格を有していれば国際的にキャリアを築き、働くことが可能です。なぜなら、私たちの資格は世界中で認められているからです。他の多くの職業では、資格を容易に移行し国際的に認めさせることはできません。しかし会計士資格は違います。世界共通の会計基準と枠組みがあるため、世界中で認められるのです。申し上げたいのは、会計士になるということは、スプレッドシートに没頭しなければならないということではないということです。正直に言うと、私は数学があまり得意ではない会計士の一例です。会計士の役割の中には、数字に深く関わることを好む人向けの役割も確かに存在します。会計は幅広い分野なのでそうした役割も可能です。しかし、テクノロジーに焦点を当てた役割や、多くの人々と関わる役割など、他にも非常に多くの役割があるのです。医療などの非営利分野で働く会計士もいれば、世界的な大手企業で働く会計士、さらには映画業界で働く会計士も知っています。会計士は望む場所で働けます。なぜなら、ビジネスを行うあらゆる場所には、どこかで会計士が必要となるからです。希望すれば、自ら起業して様々な企業にサービスを提供する道もあります。お金が動く場所には必ず会計の知識を持つ人材が必要であり、それはあなたが想像もしていなかった可能性の扉を開くのです。
日本そしてアジアの役割

觀)
ありがとうございます。別の視点として、日本はアジアにおける主要国の一つであり、IFACは現在地域ごとのマネジメントに注力しています。発展途上国を含むアジア地域について、ご意見や懸念を伺えますか?また、日本は先進国であることから、日本の会計プロフェッションに向けた具体的なコメントやアドバイスはありますか?

ラルトン)
ご指摘のとおり、日本は世界的にリーダー的存在であり、会計プロフェッションにおいて非常に高い評価を得ています。基準設定分野やビジネス界でも高く評価され、そしてアジアは世界経済の成長エンジンです。日本の役割は極めて重要です。日本は先進国として驚異的な経済成長を遂げ、素晴らしい文化を有し、アジアの中心に位置しています。したがって、日本で働く人々には、キャリアを強化し、自らの声を届け、日本やその他の東洋文化の視点をグローバルな環境で発信し、変化を推進し、さらなる発展をもたらす大きな機会があると思います。
つまり、非常に大きな可能性があると考えています。
JICPAと日本の会計プロフェッションへの期待
觀)
ありがとうございます。JICPAへ期待されることは何でしょうか?
ラルトン)
JICPAには、今後もグローバルな場で活躍できる素晴らしい人材を送り出してほしいです。現在も多くの優れた人材が活躍されています。觀 恒平さんもその一人です。あなたはこの職業の素晴らしい代表かつリーダーであり、あなたや同僚の方々と共に仕事をする中で私は多くを学びました。あなた方の存在は高く評価され、尊敬されています。
日本の会計業界が今後もその卓越した才能をグローバルに発揮し続けてくれることを心から期待しています。日本には世界に誇る人材が揃っており、その力をぜひ示していただきたいと思います。
おわりに
觀)
ありがとうございます。では最後に、日本の会計プロフェッションや本ウェブサイトの読者の皆様に向けて、グローバルな会計プロフェッションに対するご自身の抱負をお聞かせいただけますか?
ラルトン)
世界の会計プロフェッションは、経済の成長と発展を支援するために存在します。私たちの仕事の目的の一つは、人々が有する資源をより有効に活用し、地域社会のより良い未来を築く手助けをすることです。私たちが世界の会計プロフェッションに望むことは、進化し続け、その役割を多様化させることです。データと情報及びテクノロジー利活用を一層進める必要があります。さらに、多様なスキルを取り入れ、企業活動を伝える私たちの能力を活用して、経済の様々な分野で変革をもたらす必要があります。サステナビリティとESGは、企業活動の真のコストを反映できる分野の一つです。長い間、貸借対照表や損益計算書には金銭的な項目しか記載されてきませんでした。サステナビリティ情報は、企業活動のより広範なコスト、そして我々の活動の全体的なコストを示しています。これは財務諸表項目の数値として表示される場合もあれば、注記や別形式で開示される場合もあるかもしれません。重要なことは、その情報が信頼性あるものであり、企業活動の全体的な状況を示すことです。私たちの未来により良い成果をもたらす情報を、会計プロフェッションが力を合わせて生み出していくことこそが、私の強い願いです。
觀)
ありがとうございます。日本のプロフェッションとJICPAに向けた素晴らしいメッセージに心から感謝します。世界中の会計プロフェッションの明るい未来に向けて、共に取り組めることを楽しみにしています。
ラルトン)
私もとても楽しみにしています。
觀)
貴重なお話をありがとうございました。お話しできて光栄でした。
ラルトン)
こちらこそ、ありがとうございました。