国際監査・保証基準委員会(IAASB)のTom Seidenstein議長及びJosephine Jackson副議長に訊く~ISSA 5000の開発とIAASBの今後の取組~
国際監査・保証基準審議会 (International Auditing and Assurance Standards Board:IAASB)のTom Seidenstein議長及びJosephine Jackson副議長が2025年1月21日から24日にかけて来日されたこの機をとらえ、茂木哲也会長及び藤本貴子副会長がインタビューをいたしました。
(茂木会長)
まず、2024年11月に公表された、国際サステナビリティ保証基準 5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」(以下「ISSA 5000」という。)について、お話を伺いたいと思います。本基準の公表は、IAASBにとって、また世界中の関連するステークホルダーにとっても、大変大きな意味を持つものと思います。Seidenstein議長から、ISSA 5000の主な特徴について、簡単にご説明いただけますか。
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(Seidenstein議長)
サステナビリティ保証に関する新しい基準である、IAASBのISSA 5000は、サステナビリティ保証のグローバル・ベースラインとして策定され、国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board:ISSB)など、サステナビリティ報告の基準設定主体が行っている取組を補うものです。適切な資質を有する全ての保証業務実施者は、受入可能なあらゆるサステナビリティ開示の枠組みや基準に従って作成されたサステナビリティ情報に対して、ISSA 5000を適用することができます。また、ISSA 5000は、限定的保証業務と合理的保証業務の両方に対応しています。実際、IAASBは、要求事項を最終化する前に、限定的保証と合理的保証における作業の相違点がより明確になるようにしています。
(藤本副会長)
2023年8月にISSA 5000の公開草案が公表され、IAASBは、世界中の様々なステークホルダーから、多くのフィードバックを受けたと伺っています。Jackson副議長にお伺いします。ISSA 5000を最終化する過程で、ステークホルダーからのコメントに対応するため多くの議論がなされた主な点について、議論の結果変更された内容、変更されなかった内容、またその理由を教えていただけますか。
(Jackson副議長)
2023年に行ったISSA 5000に関する市中協議の際には、何千ものステークホルダーの皆様が、公式協議(ラウンドテーブル参加やコメントレターの送付)、ウェビナー、その他のイベントを通じて、かつてないほどの多くの意見やフィードバックをお寄せ下さいました。
最も重要なフィードバックは、ISSA 5000に対する絶大な支持が得られたこと、また、報告基準のように、高品質な保証基準のグローバル・ベースラインがあれば、サステナビリティ報告に対する信頼性が大きく向上するはずだという意見があったことです。
以下については、より具体的な説明や明確化が必要という声が共通して聞かれました。
• 基準の適用範囲
• サステナビリティ事項及び情報・開示情報
• 関連する職業倫理及び品質マネジメントに関する規定
• 重要性
• 業務チーム、他者の作業の利用、グループ業務
• 限定的保証及び合理的保証
また、適用ガイダンスを求める声が非常に多くありました。そのため、基準を最終化するに当たって、これらの分野については、基準の要求事項、適用指針、あるいは適用ガイダンスの中で明確にするようにしました。
(茂木会長)
IAASBにとって、ISSA 5000の公表は、出発点であり、最終的なゴールは、基準が世界中で採用され適切に適用されていくことではないかと考えています。Seidenstein議長、これに関連して、ISSA 5000の適用支援活動等、IAASBで計画していること等があれば教えていただけますか。
(Seidenstein議長)
国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants:IESBA)より、サステナビリティに関する新しい職業倫理及び独立性基準が公表されるのに合わせて、1月27日に、ガイダンス及び補足資料一式を公表する予定です。これらのガイダンス等には、適用ガイド、ファクトシート、FAQ文書、FAQビデオシリーズが含まれます。*基準の公表後、これほど早い段階で、このように様々な適用支援のための資料を公表できるのは初めてのことです。
2025年中には、一連の具体的なトピックについて、さらに詳細に扱うウェビナーも開催する予定です。また、幅広いアウトリーチ活動を行い、これらの対話を通じて、ステークホルダーの皆様からの追加的なニーズがあるか明らかにしていくつもりです。
(藤本副会長)
IAASBは、本年度から、「2024年から2027年の戦略及び作業計画」をスタートさせ、既に新しいプロジェクトが幾つか開始されているほか、今後、新しいプロジェクトが開始されると伺っています。その中でも、日本の実務家の方が特に関心を持っているのが、テクノロジーに関するIAASBの取組みになります。テクノロジーに関する取組みついて、Seidenstein議長からご紹介いただけますか。
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(Seidenstein議長)
昨年9月、IAASBは、新しいテクノロジー・ポジションを承認しました。これは、監査や保証業務におけるテクノロジーの利用を積極的に受け入れるべく、IAASBの活動や基準を適応させる際の指針となるものです。IAASBは、テクノロジーを積極的に受け入れつつ、慎重に考慮された形で基準の設定を行うことによって、基準の適合性が保たれ、監査品質が向上し、新しい世代の人材がこの職業に就くのを促すことができると考えています。テクノロジー・ポジションには、この取組を進めていくために実施する八つの主要なアクションが含まれています。例えば、革新を受け入れること、障壁を取り除くこと、新たな要求事項と適用指針を導入することなどです。
現在は、課題を検討し、次に取るべき施策を明らかにするために、ギャップ分析を実施しているところです。また、監査証拠とリスク対応に関する新しいプロジェクトも開始しました。監査証拠とリスク対応のいずれも、テクノロジーとの関連性が高いので、ステークホルダーの皆様にとっては、このプロジェクトが、新しいテクノロジー・ポジションの影響を目にする最初の機会となる可能性が高いでしょう。
(茂木会長)
最後に、Seidenstein議長とJackson副議長のそれぞれに、JICPAウェブサイトの読者に向けて、日本へのメッセージがあれば、お願いしたいと思います。
(Seidenstein議長)
IAASBも私自身も、国際的な基準に対するJICPAの揺るぎないご支援に深く感謝しております。皆様のご協力は、財務報告のエコシステムに対する信頼を高めるという共通のコミットメントを体現するものです。IAASBは、独立した基準設定主体として、引き続き強固なデュー・プロセスを維持し、公共の利益に資する高品質な基準を提供することに全力を尽くして参ります。私たちは共に、世界経済の健全性と透明性を推進し、実りあるパートナーシップを継続してきたいと考えております。
(Jackson副議長)
同じく、ISSA 5000に対するJICPAの変わらぬご支援に深く感謝しております。2024年11月に公表されたJICPAの公式声明は、この画期的な基準の重要性を強調するものであり、また、高品質なサステナビリティ保証を推進するという我々の共通のコミットメントが反映されたものだったと思います。グローバルにおけるサステナビリティ報告に対する信頼を醸成する上で、皆様のリーダーシップと積極的な関与は極めて重要です。私たちは、この協力関係をさらに発展させ、公共の利益のために、意義ある進歩を遂げていきたいと思っております。