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国際監査・保証基準審議会(IAASB)のTom Seidenstein議長に訊く~IAASBの現在の活動と将来の展望~

2023年04月21日

 国際監査・保証基準審議会 (International Auditing and Assurance Standards Board:IAASB)のTom Seidenstein議長が4月10日から13日にかけて来日されたこの機をとらえ、茂木哲也会長がインタビューをいたしました。


(茂木会長)

(茂木会長)
前回来日下さったのは、丁度議長に就任された直後の2019年7月でした。就任されてから4年弱が経過し、その間、コロナ等、世の中には様々なこともあり、IAASBの活動にも色々な影響があったと思います。この4年弱の間を振り返ってどのようにお感じになっていますか。


(Seidenstein議長)
日本の規制当局や会計士業界は、 IAASBの取組を強く支持してくださっており、そのような日本にまた来ることができてとても嬉しく思っています。日本のように、報告、監査及び保証に関する多くの重要課題の最前線にいる国が、国際基準を支持して下さっていることは、IAASBにとって非常に大きな意味があります。
この4年間は、世界に本当に予期せぬ課題をもたらし、IAASBの運営にも影響がありました。多くの人がそうであったと思いますが、私たちも完全にバーチャルな環境で運営することになりました。時差を調整しながら13か国からボードメンバーが集まってバーチャル会議を行い、中には一度も直接会ったことがない人もいました。
私は、パンデミック時に達成できたこと、そしてパンデミック後にも引き継がれた推進力を誇りに思います。
IAASBは、不正、継続企業、サステナビリティなど、最も差し迫った公共の利益上の課題に取り組むことに成功しました。また、基準設定プロセスの機動性を高め、品質を犠牲にすることなく、より迅速にプロジェクトを完了させることができるようになりました。最後に、基準設定プロセスを通じて、利害関係者の関与を強化しました。
まだ達成すべきことはたくさん残っていますが、私たちは前進しています。


(茂木会長)
現在、IAASBが取り組まれているプロジェクトで、日本の関係者にも非常に関心が高いものの一つが、サステナビリティ保証プロジェクトだと思います。プロジェクトについて、簡単にご紹介頂いてもよろしいですか。


(Seidenstein議長)

(Seidenstein議長)
IAASBは、2024年末までに、限定的保証業務及び合理的保証業務に関するサステナビリティ保証基準を完成させるために、多大なエネルギーを注いでいます。報告基準と同様に、高品質な保証基準がグローバル・ベースラインとして存在することは、サステナビリティ報告に対する信頼を大きく向上させるはずです。私たちの究極の目的は、財務諸表監査と同様に、企業が報告する内容に信頼と信用を提供する品質と一貫性のある保証を実現することでなければなりません。
このような理由から、私たちは既に定着している基礎を元にして、迅速に動き出しました。多くの皆さまがご存知のように、国際保証業務基準(International Standard on Assurance Engagements :ISAE)3000(改訂)「監査及びレビュー業務以外の保証業務」という確立された包括的基準や、ISAE 3410「温室効果ガス報告に対する保証業務」などの主題別の基準が既に存在しています。また、2021年4月には、保証業務を行う専門家が、サステナビリティやその他の非財務情報に対する保証業務に、包括基準(ISAE 3000)を適用する際に役立つガイダンスを公表しました。
私たちは、国際サステナビリティ保証基準(International Standard for Sustainability Assurance:ISSA) 5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」という新基準の案を開発するに際して、これを包括的な基準とするため、ISAE 3000やISAE 3410に含まれる概念やその他の関連する監査の概念を活用しています。新基準では、業務実施者による業務の開始から完了までの全過程を取り扱う予定で、また、複数の報告の枠組み(例えば、国際サステナビリティ基準審議会、グローバル・レポーティング・イニシアティブの基準)に適用されます。加えて、業務実施者に捉われない(practitioner agnostic)、つまり、監査法人と監査法人以外の両方が、この基準を適用することができるようにする予定です。
また、新基準に対する需要が高まってきているため、時間が重要であることも承知しています。基準の開発は順調に進んでおり、2024年12月までに最終化された基準を公表する予定です。
私たちは、今年の第3四半期に、パブリックコメントのための基準案を公表し、その後、基準を利用する人々や保証業務の結論に依拠する人々から意見やインプットが得られるよう、全世界のあらゆる利害関係者に対して、多くのアウトリーチを実施する予定です。


(茂木会長)
これまでは、IAASBはどちらかというと監査基準の策定を中心に取り組まれていたと思いますが、今後は、サステナビリティ保証基準の策定も、監査基準と同じ位重要な位置付けになってくるのではないかとも想像しています。また、モニタリング・グループからの提言を受けて、大きな組織改革を行っているところとも伺っています。
現在、IAASBは2024年~2027年の戦略と作業計画を策定中と理解していますが、今後、特に重要視されているテーマや課題があれば教えて頂けますか。


(Seidenstein議長)
はい。サステナビリティ保証基準への取組は、従来の監査に関する取組と同様に、日常的なワークストリームになると考えています。しかしながら、これはIAASBにとって新しい分野ではありません。IAASBは国際監査基準(International Standard on Audit:ISA)以外にも、レビューやその他の保証業務、関連サービスに関する国際基準など、十分に確立された基準を持っています。
それにもかかわらず、私たちは、需要の高まりを認識し、現在協議中のIAASBの戦略案の一部として、明確な戦略目標を設定しました。私たちは、ISSA 5000が今後開発されることになる一組の基準の中の最初の基準になるだろうと考えています。ISSA 5000の開発において、また戦略及び作業計画の協議を通じて、今後取り組むべきサステナビリティのトピックを確実に特定していきたいと思っています。
モニタリング・グループ改革による組織強化は、サステナビリティと監査に関する私たちの目標の達成に役立つと思います。
恐らく最も重要なことは、組織改革によって、基準設定プロセスの独立性がより信頼されるようになることです。また、国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants:IESBA)ともこれまで以上に緊密に連携しています。サステナビリティのための倫理及び保証基準の統合されたパッケージは、世界中の業務実務者に公平な競争環境を提供し、一貫性を維持するために不可欠です。また、モニタリング・グループ改革により、監査と保証の両方の基準設定を行えるよう、スタッフのリソースを増やすことができます。
私たちの戦略としては、不正や継続企業に関するプロジェクトを終了させるなど、監査プロフェッションに対する信頼を高めるための喫緊の課題に取り組む一方、テクノロジーの活用などの新たな課題にも取り組む必要があると認識しています。私たちは、利害関係者、特に規制当局や基準設定主体との連携を強化し、これを実現しなければなりません。また、基準設定主体として、基準設定プロセスを機動的でアクセスしやすいものにするため、より革新的な方法を見出す必要があります。


(茂木会長)
JICPAウェブサイトの読者に向けて、日本へのメッセージがあればお願いします。


(Seidenstein議長)
日本は古くから国際基準の設定をリードしてきました。これは、20年近く前にIFRS財団にいた時にもそう感じていたのですが、IAASBの状況にも非常によく当てはまります。第一に、質の高い国際的な監査・保証及び倫理の基準に対する継続的な支持をお願いします。第二に、IAASBとIESBAのボードメンバー、スタッフ及びアドバイザリー機関のメンバーとして、引き続き、有能な人材の推薦をお願いします。第三に、私たちのコンサルテーションやアウトリーチに是非参加してください。特に、サステナビリティについては、できるだけ多くの人の意見を聞きたいと考えています。


(左:茂木会長、右:Seidenstein議長)
 
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