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国際監査・保証基準審議会(IAASB)新議長Tom Seidenstein氏に訊く~監査プロフェッションへの期待~

2019年07月19日

 2019年7月17日に国際監査・保証基準審議会(IAASB)新議長であるTom Seidenstein氏が来日されたのを受け、この機会をとらえ、この度、関根愛子会長がインタビューいたしました。

(関根)

IAASB議長への就任おめでとうございます。また、お忙しいところ本日はお時間を頂きありがとうございます。7月1日に就任されたばかりですが、今回の東京訪問が、IAASB新議長としての初めての海外アウトリーチ活動と伺っており、大変光栄に思っています。まずは、議長に就任された現在のお気持ちをお聞かせ頂けますか?

関根会長

 (関根会長)

 

(Seidenstein)

 今回の東京訪問が、IAASB新議長としての私の最初の海外アウトリーチとなったことを嬉しく思っています。IFRS財団に在籍していた際、日本の規制当局、会計業界、及び経済界の関係者の方と密接な関係を築かせて頂いたことに大変感謝しており、今後、IAASB議長という新しい役割において、再び皆さんと一緒にお仕事ができることをとても楽しみにしています。

 

 特に、日本公認会計士協会、金融庁及び日本証券業協会には、数十年にもわたり、IAASB及び諮問助言グループ(CAG)に積極的に関与され、大変有益な戦略的関係を築いて頂いています。現在は、ボードメンバーである甲斐幸子氏、テクニカル・アドバイザーである吉村航平氏、そして金融庁からのオブザーバーである松本祥尚氏及びCAG代表である吉井一洋氏に多くの貢献をして頂いています。

 

 IFRS財団に在籍していた時も、連邦住宅抵当公庫(Fannie Mae)に在籍していた時も、私は常に、市場の有効性に対し積極的な貢献を行う組織やその役割に魅力を感じていました。監査プロフェッションは、グローバルな金融システムの枠組みにおいて不可欠の存在です。IAASBは、公共の利益に資する高品質な基準を開発・改訂する活動を行っており、これは世界経済の信頼性を確保するために不可欠です。しかしながら、IAASBは、単独で活動を行うことはできません。我々の成功は、グローバルにおける利害関係者との連携に依存しているのです。この点からも、私は、日本のリーダーの方とお話しするのを楽しみにしています。

新議長

(Seidenstein氏)

(関根)

サイデンスタインさんは、2001年から2011年の間、IFRS財団に在籍され、COO(最高執行責任者)として、IFRS 財団のガバナンス改革に中心的に関与されていたと伺っています。また、IAASB議長に就任される前までは、Fannie Maeにおいて、上級副会長(Senior Vice President)を務められていた他、国際評価基準審議会(IVSC)の評議員をされていたと伺っています。このように多岐に渡る知識や経験を持っていられるサイデンスタインさんからみて、現在の監査プロフェッションが置かれている状況をどのように見ていますか。

 

(Seidenstein)

 監査プロフェッションは、この混迷した時代における他のプロフェッションと同様に、様々な課題に直面していると思います。我々は、テクノロジーの進化や、ビジネス及び外部報告環境の複雑性の増加に対応しなければなりません。また、情報のユーザーは、しばしば、異なる期待を有することにも対応しなければなりません。IAASBは、各国の基準設定主体、規制監督当局、情報作成者、企業におけるビジネスリーダー及びガバナンス担当者、監査事務所、株主並びに投資家を含めた多くの当事者から成る、巨大かつ多様な外部報告エコシステムの一部です。IAASBは、基準設定の役割を通じてこのグローバルなエコシステムを積極的に支え、外部報告に対する公共の信頼性の構築と維持を支援し、監査及び保証業務の信頼性を強化していきます。

 私は生来の楽観主義者で、現在の状況を非常に楽観的に考えています。これには主に三つの理由があります。第一に、IAASBによる高品質かつグローバルな監査及び保証基準の必要性は広く受け入れられています。これはすばらしい基盤です。第二に、会計プロフェッション、基準設定関係者及び規制監督当局の間の対話が強化されており、これにより、より結束力のよるアプローチが促されます。そして最後に、IAASBは、グローバルに利害関係者からのインプットを受けて戦略を検討しており、これによって、今後対応するべき重要な課題を優先付けることが可能です。

 

(関根)

 IAASBは現在、2020年から2023年の戦略と2020年から2021年の作業計画を策定中だと伺っています。来年以降の戦略期間において、新議長として達成したいと思っている目標や、特に重要視している課題やテーマがあれば教えて頂けますか。

(Seidenstein)

 IAASBは、現在、戦略策定のためのコンサルテーション・ペーパーに対して寄せられたコメントレターの分析中ですので、その結果を私が現時点で予断することはできないのですが、幾つか、大きな全体的なテーマが浮かび上がっており、これらは私の考えとも一致していると思います。我々は、基準の実務への着実な適用をサポートしなければなりません。我々は、複雑でない企業の監査における課題や非財務情報の報告に関する需要の増加を含め、公共の利益にとって重要な課題に対して、タイムリーに対応する必要があります。我々は、基準の厳格性と品質の維持の必要性に常に留意しながら、新しくかつ進化するニーズに対応する必要があります。我々は、テクノロジーが基準に及ぼす影響に対処しなければなりません。また、テクノロジーの利用により基準設定プロセスを強化できる可能性についても検討しなければなりません。全ての規制監督当局及び基準設定主体が、各国レベル及び国際レベルにおいてより密接な連携関係を築くべきという認識があります。最後に、我々は、利害関係者との対話や連携を強化するため、新しいかつ革新的な方法を模索しなければなりません。

(関根)

 私の持つ、国際会計士倫理基準審議会(IESBA)のメンバーやIFACの推薦委員会のメンバーとしての経験を踏まえても、国際基準の設定において、多様な視点や考え方を理解しながら検討することはとても重要であり、またそれはとても困難なプロセスだと思います。ビジネス環境の進化により企業の状況が多様となり、監査のグローバル化が進む中で、様々な利害関係者の意見を聞くことの重要性は、IAASBとしてより高まっているのではないかと推測しています。

 新議長として、今後、どのような形で多様な意見を取りまとめていこうと思っていらっしゃいますか?

(Seidenstein)

 関根さんが、グローバルな会計プロフェッションに対して貢献下さっていることに、本当に感謝しています。現在、我々はIESBAとの連携のために多くの取組を行っていますが、IAASBとIESBAという基準設定機関は、基準を維持・発展しプロフェッション全体を強くするために、無報酬で貢献してくれているメンバーやテクニカル・アドバイザーの作業に支えられています。

 

 利害関係者とのコンサルテーションの重要性については、全く同感です。私は、広範囲かつ様々な利害関係者の方と対話をする必要性を強く感じています。これは、グローバルな基準設定主体として、我々が行う作業に対する信頼を常に強化しなければならないためです。デュー・プロセスに沿って、また世界中における最善な考え方を反映した形で、透明性を持って活動を行っていくため、私は、IAASBとして、国際的なアウトリーチとパブリック・コンサルテーションに全力で取り組みたいと思っています。IAASBのCAGは、素晴らしい組織です。CAGにより、グローバルな規制当局、経済界及び国際組織、並びに財務諸表及びその他の外部報告の作成者及び利用者の方々との活発な対話が生まれています。また、テクノロジーやその他のツールをもっと活用することで、利害関係者の方との対話を更に革新することも出来ると思っています。

(関根)

最後に、JICPAウェブサイトの読者に向けて、日本のプロフェッションに期待すること等、メッセージがあればお願いいたします。

(Seidenstein)

 私は、日本のプロフェッションの皆さんに大きな敬意を抱いています。皆さんは、会計業界が直面したいくつかの最も大きな課題に関する議論において、常にリーダー的な役割を果たしてこられました。皆さんの参加によって、国際的な基準設定活動は更に豊かなものになります。今後も、我々の取組への関与と、高品質な基準に対する重視の姿勢を続けて頂ければと思います。

新議長と会長

(左:Seidenstein氏、右:関根会長)

 

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