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公認会計士・鈴木理加氏に訊く~IASB理事に就任するまでの道のり~

2019年06月20日

 2019年3月12日IFRS財団評議員会は、2019年6月30日に2期目の任期が満了する鶯地隆継氏(アジア・オセアニア枠)に代わり、鈴木理加氏をIASB(国際会計基準審議会)理事に指名したことを公表しました(任期は2019年7月1日から5年間)。

 新しくIASB理事に就任される鈴木理加氏は公認会計士でもあり、どのような道のりを経てIASBの理事に就任されるのか、この度、関根愛子会長がインタビューいたしました。

(関根)

1.IASBへの理事への指名おめでとうございます。また、お忙しいところ本日はお時間を頂きありがとうございます。3月にIFRS財団より発表があり、現在は、7月の就任に向けてその準備にお忙しいところと思いますが、まずは、指名を受けての現在のお気持ち、理事就任に向けて現在行われていること、抱負等を教えて頂けますか?

 

関根会長と鈴木次期IASB理事

(左:関根JICPA会長、右:鈴木次期IASB理事)

(鈴木)

 単一で高品質な国際的な会計としての地位をしっかりとIFRSが固め注目が集まる中で、この基準を開発するIASBの理事としての就任が決まりましたことは大変光栄であり、また、身が引き締まる思いがしています。

 現在は、監査法人は退任するため、担当している業務の引継ぎをしっかりと進めながら、理事としてのご経験を伺い、実際に活動されている場に同伴して頂きながら、鶯地理事が尽力されてきた活動を、しっかりと引き継げるよう学ばせていただいています。

 これから就任する私は、国際的な会計基準としての確固たる地位が築かれ関係者が拡大していることや、時代の変化のスピードが急速になっていることなども視野に入れる必要があると考えています。この状況を踏まえて、長期的に質の高い会計基準として利用されるIFRSであり続けるために何が必要なのかをしっかりと考え、基準開発やその適用の支援に尽力していきたいと考えています。そのためには、拡大している利害関係者のご意見やお考えも伺って、多様な視点や考えを理解しながら検討していきたいと思います。

( 鈴木次期IASB理事)

(関根)

2.多様な視点や考えを理解しながら検討していくことは、基準作りにはとても重要なことですね。鈴木さんは、現在、監査法人の品質管理部門でIFRSのリーダーを務めるとともに、JICPAやASBJでも専門委員等を務めていらっしゃいますし、IASB元理事の山田さんが主宰されているJICPAでのIFRS勉強会の初代からのメンバーですので、周りからはIASBの理事の候補のひとりとして考えられていたのではないかと思いますが、ご自身としては、いつ頃からIASBの理事になることを意識されていましたか?やはり、こうした活動を通じてIASBの理事が身近なものとなってきたのでしょうか?

 

(鈴木)

 確かに、私の会計士キャリアの最初13年は、監査業務中心でした。規模、業種、会計基準、監査基準等が異なる多様な被監査会社の監査業務に従事しました。その後、米国法人ナショナルオフィスでIFRS担当をしたことをきっかけに、法人全体の品質管理部門の会計担当部署に所属しています。また、JICPAのIFRS勉強会初代メンバーとして、8年間毎月、IASBのアジェンダペーパーを読み、山田辰己さんや他の監査法人の方々と、1日から2日間審議内容を議論もしてきました。

 このような状況でありながら、IASB理事という存在を自分のキャリアの中に織り込んでいったのは、PwCあらたのパートナーに就任してからになります。パートナーまたIFRSリーダーとして、監査法人やPwCネットワーク、会計士業界を代表して、法人の品質管理パートナーとして最終判断を結論付けたり、日本の立場を考えPwC内で主張したり、JICPAで会計士業界の考えをまとめ、ASBJにおいて異なる業界の方々との調和を図りながら基準の定めを決めていくといったことを経験する中で、IFRSや会計基準を開発することへの思いが強まっていったと思います。

 

(関根)

3.現在従事されているテクニカルな業務というのも、最初から行っていたわけではなく、当初は監査業務が中心だったものの、米国でIFRSを担当したことをきっかけに品質管理部門に所属されたということですが、最初からご自身でこうした道に進もうと希望されていたのでしょうか?それとも、それまでの業務からこうしたことに興味を持たれたのでしょうか?

(関根JICPA会長)

(鈴木)

 パートナーとなる前は、監査チームメンバーや被監査会社の方々と辛く大変な事態や問題もともに歩んで克服し、正しい財務情報を市場に提供するという目的を達成するために必要な業務に従事することが、私の役割だと考えていました。このため、会計は、その目標を達成するために必要で重要なものとの位置付けでした。

 しかしながら、PwCグローバルネットワークのIFRSに係る意見形成を行うタスクフォースに日本法人の代表として参加するようになり、各地域を代表するメンバーの多様な見解に改めて驚きました。しかし、議論を重ねるとお互いに譲れないと考えていることに共通項があるなど不思議な調和を見つけられることがあり、IFRSという国際的な会計基準の奥の深さや魅力に引き込まれました。また、ASBJ収益認識専門委員会に、各業界を代表する方々やASBJのスタッフの方々と参加し議論を重ねることで、会計基準を開発することの楽しさと難しさを同時に学び、会計基準の開発により深く関わっていきたいと考えました。

 

(関根)

4.IASBのような国際的な会議のメンバーとなって仕事をするというのは、語学の問題だけでなく、会議での発言スタイルや文化の違い等から、日本人にとって難しい面があると、私自身もIFACの仕事をして痛感しているところです。しかしながら、公認会計士の業務はグローバル化が進んでおり、特に会計基準は世界的に統一の方向に進んでいますので、多くの方にこうした場で活躍頂きたいと考えていますが、鈴木さんは、海外での仕事も含め、どのようにして経験を積まれてきたのかをお話頂けますでしょうか?

 

(鈴木)

 日本に親会社のある被監査会社の国内・海外子会社を含む連結グループ全体の監査の実施をリードする役割、米国法人のナショナルオフィスでIFRSに係る会計相談を米国内外から受ける役割、日本法人のIFRSリーダーとしてPwCネットワーク内で日本の考えを伝え議論する役割等、様々な経験をしてきました。これらの経験から気づいたことは、プロフェッショナルとして英語でコミュニケーションをとれるということは、英語で流ちょうに話ができるということとは異なるものだということです。通常、国際的なビジネス環境でのコミュニケーションに慣れ、英語が思うように出てくるまで時間はかかると思います。一方で、それを理由に母国語を英語としない私たちが諦める必要はないと思います。自分が、プロフェッショナルとして正しいと思っていることや、伝えなくてはいけない重要なことを、他者に伝えたいという熱意を持って話すことができれば、相手は耳を傾けて聞いてくれます。分からなければ質問をしてくれます。これは、母国語である日本語のコミュニケーションと全く同じだと感じています。伝える側に熱意がないことを、他者が熱心に聞いてくれることはありません。

 また、異なる価値観を持つものが集まれば、異なる意見や考え方があるのは当然だと思います。だからこそ、こうした他者と一緒に検討することは、自分一人では考えつかない解決策や結論を導き出すことができる素晴らしさと面白さがあります。必ずしも、効率的に進められない場合もありますが、他者の考えを聞き、一緒に考えることで、自分のものの見方や考え方も広がり豊かになります。そのような気持ちが、国際的な会議の場でのコミュニケーションには必要だと思います。

 

(関根)

5.おっしゃるとおり、伝えたいという熱意を持つこと、他者の考えを聞き、一緒に考えることが自身を広げると考えることは、あらゆる場においても当てはまると思いますが、特に国際的な会議の場では重要ですね。最後に、鈴木さんのような道を目指す方々へのメッセージをお願いします。

 

(鈴木)

 今、時代は、過去にないスピードで変化しています。現在、目の前にある多くの事象も、数年後にはなくなったり変容したりしていくことと思います。そのような時代だからこそ、ますます、日本の公認会計士という資格をもって活躍できる機会や役割は、国内だけでなく、国際的な場でも増えていくことと思います。是非、多くの方々に公認会計士を目指しチャレンジして、自らの人生を切り拓いていただきたいと思います。

 また、私は、どのような仕事も次の仕事へのステップの一つだと考えてきました。目の前にある小さな仕事を一緒に取り組んだ方に、次にもう少し大きな機会をいただいたり、不足した経験や知識を補完できる役割をいただいたりしました。そのようにして、本日の私にたどり着いています。是非、会計士である皆様には、小さな経験を重ね、様々な出会いを大切にしながら、自らの経験や知識を生かす活躍の場や大きな目標を見つけていただけたらと思います。

 

(関根)

 本日はお忙しいところ、素敵なメッセージを頂き、ありがとうございました。

 

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