第6章 国際財務報告基準(IFRS)の任意適用の積上げに向けた我が国の対応

1. IFRSの任意適用の積上げに向けた対応(「当面の方針」を受けた対応)

第5章の4.にある「当面の方針」における下記3つの課題について、2013年6月以降に随時対応が進められた。

1. IFRSの任意適用要件の緩和

2013年10月 金融庁が「連結財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」を公表し、これまでの3つの要件のうち2つを撤廃し、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)による連結財務諸表の適正性確保への取組・体制整備をしていることのみを要件とした。これによりIFRSが適用可能な企業の対象が大幅に広がった。

2. IFRSの適用の方法(エンドースメント手続)

企業会計基準委員会(Accounting Standards Board of Japan:ASBJ)にて、国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board:IASB)が設定した個々の会計基準等について、修正することなしに採択可能か否かを、「当面の方針」に示された判断規準に従って一つ一つ検討する手続が進められている。

3. 単体開示の簡素化

2014年3月 金融庁が「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」を公表し、本表について会社法の水準に合わせた新たな様式を規定し、注記、附属明細表、主な資産及び負債の内容について連結財務諸表に十分な開示がなされている項目について開示を免除し、会社法の計算書類と開示水準が大きく異ならない項目について会社法の開示水準に合わせるなどの開示を簡素化する修正が示された。

2014年7月9日現在

2. 自由民主党「日本再生ビジョン」

2014年5月23日、自由民主党、日本経済再生本部は、「日本再生ビジョン」を公表した。ここで掲げられた7つの柱の1つである「4. 日本再生のための金融抜本改革」のなかで、「(5)会計基準等、企業の国際化、ルールの国際水準への統一」(41ページ)が提言され、具体的に、下記について記載している。

会計における「単一で高品質な国際基準」策定への明確なコミットの再確認

  • 2013年6月に自民党が公表した「国際会計基準への対応についての提言」では、「集中投資促進期間」のできるだけ早い時期に、IFRSの強制適用の是非やタイムスケジュールを決定するよう議論を深めることを求めている。政府は、その具体的作業を早急に始めるべき

IFRSの任意適用企業の拡大促進

  • 2013年6月に自民党が公表した「国際会計基準への対応についての提言」で掲げた、2016年末までにIFRS適用企業を300社程度とする目標の実現に向け、あらゆる対策を検討し、実行に移し、積極的に環境整備に取り組むべき

JPX新指数に採用された企業への働きかけ

  • JPX新指数銘柄に採用された企業に関しては、社外取締役やIFRS導入動向をモニターし、十分な進展がみられない場合、当該企業への働きかけや、それらの加点割合を増加させる等、一層の促進策の検討を行うべき

東証上場規則における企業のIFRSに関する考え方の説明の促進及び「IFRS適用レポート(仮称)」の作成

  • 上場企業に対し、IFRSの適用に関する基本的な考え方を、投資家に説明することを、東証上場規則で促すよう提案する
  • IFRSの任意適用会社が、IFRS移行時の課題をどのように乗り越えたのか、移行のメリットは何か、等について実態調査やヒアリングを行い、金融庁にて「IFRS適用レポート(仮称)」を公表し、移行を検討中の企業を後押しすべき

なお、別の柱となる「5. 起業大国No.1の実現」の中では、M&Aの促進を掲げ、日本基準における「のれんの償却」とIFRSにおける「のれんの非償却」との関係で、企業の競争力に問題が生じかねないと指摘し、企業のIFRS移行の促進、IFRSの使いやすさの向上のために早期問題解決を図ることを言及している。

3. 「日本再興戦略」改訂2014

2014年6月24日、「日本再興戦略」改訂2014―未来への挑戦―が公表された。この中で、金融・資本市場の活性化のための具体的施策として、IFRSの任意適用企業の拡大促進を掲げ、下記が記載されている。

IFRSの任意適用企業の拡大促進

  • 2008年のG20首脳宣言において示された、会計における「単一で高品質な国際基準を策定する」との目標の実現に向け、IFRSの任意適用企業の拡大促進に努めるものとする。
  • また、従来進めてきた施策に加え、IFRSの任意適用企業がIFRS移行時の課題をどのように乗り越えたのか、また、移行によるメリットにどのようなものがあったのか、等について、実態調査・ヒアリングを行い、IFRSへの移行を検討している企業の参考とするため、「IFRS適用レポート(仮称)」として公表するなどの対応を進める。
  • 上場企業に対し、会計基準の選択に関する基本的な考え方(例えば、IFRSの適用を検討しているかなど)について、投資家に説明するよう東京証券取引所から促すこととする。

東京証券取引所は、2015年3月31日以後に修了する通期決算に係る決算短信から「会計基準の選択に関する基本的な考え方」を開示することを上場会社に要請している。

4. 「修正国際基準(JMIS)」

本第6章、1. の2. 「IFRSの適用の方法(エンドースメント手続)」に記載したとおり、「当面の方針」を受けて、ASBJにてIFRSの個々の会計基準等のエンドースメント手続が進められた。手続を進めていくにあたり、ASBJにおいて「IFRSのエンドースメントに関する作業部会」が設置され、2013年8月より、詳細な検討が実施された。その結果、2014年7月に「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準 "Japan's Modified International Standards (JMIS) : Accounting Standards Comprising IFRSs and the ASBJ Modifications")」の公開草案が公表された。公開草案では、のれんの会計処理(償却)とその他の包括利益の会計処理(リサイクリング)を修正しこれ以外はIFRSをそのまま採択することが提案された。3ヵ月のコメント募集期間後、公開草案に対して寄せられたコメントについて、ASBJにて対応の検討が進められた。

2015年5月8日現在

5. 「IFRS適用レポート」

2015年4月15日に、金融庁より「IFRS適用レポート」が公表された。これは、2014年6月24日に公表された「『日本再興戦略』改訂2014」(本第6章、3参照)の閣議決定で明記された「IFRSの任意適用企業の拡大促進」に対応したものであり、IFRS任意適用企業の実態調査・ヒアリングを実施しIFRSへの移行に際しての課題への対応やメリットなどをとりまとめている。

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