第2章 国際財務報告基準(IFRS)への収斂の国際的動向 03

5. 最初の定款変更

国際会計基準委員会財団(International Accounting Standards Committee Foundation:IASCF)の2001年に発効した定款では、基本的な組織構成を5年に1度見直すことが義務付けられており、2003年11月から最初の定款見直しが行われた。

2003年11月から当時評議会の議長でもあったボルカー氏が議長を務める定款委員会が定款見直しの検討を開始したが、この委員会のメンバーには、評議員である橋本徹氏(当時)も加わっていた。2003年11月に提示した公開草案に対して70を超える意見が寄せられ、これらを踏まえて重要と思われる次の10の課題が提示された。

  • IASCFの活動目的に、中小企業の直面している課題への対応を明示的に含めるべきか。
  • 評議員の人数及び地理的・職業別配分はどうするか。
  • 評議会が有する監督機能
  • IASCFの資金調達
  • IASBの構成
  • IASBの現存するリエゾン関係の適切性
  • IASBの審議手続
  • IASBの投票手続
  • IFRICの資源及び有効性
  • SACの構成、役割及び有効性

評議会は、上記10の課題に対する定款委員会の考え方を公表し、これを用いて公聴会が行われた。公聴会は、ニューヨーク、ロンドンについで、日本でも2004年7月13日に東京で開催され、日本の関係者をはじめ、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、香港から参加者が集まった。

本協会は、公開草案にコメントを提出するとともに、東京での公聴会にも参加して意見を述べた。

これらの協議を経て、2005年6月21日にパリで開催されたIASCF会合で、見直し後の定款が承認され、同年7月1日から発効した。

主な変更点は以下の通りである。

  • IASCFの目的に、中小規模企業及び発展途上国の特別なニーズを考慮に入れることを明示した。
  • 評議員の数を19人から22人に増員し、増加分は2人がアジア・太平洋地域、1人はその他の地域に割り当てられた。その結果、地域割は北米6名、欧州6名、アジア・太平洋6名、地域に関係なく選任される4名とされた。
  • 評議員の選任にあたり、ハイレベルの諮問グループを設置し、助言を受けることとした。
  • 評議会の議長の任期を、議長就任前の評議員としての任期と関係なく、最長2期6年とした。
  • 主要国の7カ国をリエゾンとして指定するという文言が削除された。
  • IASBのメンバーは、単に「専門的能力」を有するのみならず、「専門的能力及び実務経験」を有するものとされた。
  • IASBが適切なデュー・プロセスに従うことを確保するために、義務付けられていないプロセスを取らない場合には、IASBはその理由を説明することとした。
  • 従前承認に必要な票数は8票であったが、9票とされた。
  • 基準諮問会議(Standards Advisory Council:SAC)の議長をIASBの議長職から切り離し、評議会がSACの議長を任命するとした。

この定款変更には、IASB設立時から数年間におけるIASB及びIASCF並びにIFRSを取り巻く環境の変化が反映された。

まず、IFRSに対する世界の関心の高まりを受けた形で、評議員が増員された。また、IASB設立時にはリエゾン関係を通じて主要国の会計基準の調和を図り、各国の会計基準をIFRSに近づける趣旨で設けられたリエゾン国制度であったが、欧州等におけるIFRSの採用、特定国を偏重することへの批判、FASBとIASBによる基準作りの枠組みの定着等、その後の環境変化を受け、リエゾン国という概念は消滅した。さらに、基準等の承認に必要な票数に関し、あまりに頻繁に基準が変わりすぎるという声を受けて8票から9票と増加されたが、このことは迅速な意思決定を図るという設立時の目的からの変容を示すものであった。

6. 米国証券取引委員会(SEC)スタッフの「ロードマップ」公表

その後2005年4月に、米国では米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission:SEC)のスタッフが「ロードマップ」の公表を行った。これは、より正確にはSECスタッフのニコライセン氏が、2005年4月にノースウェスタン大学で講演を行い、遅くとも2009年までに、米国外の企業がIFRSに基づいて作成した財務諸表について、米国会計基準への調整表作成義務を撤廃する用意がSECにはあり、それを達成するために必要な事項を示したというものである。調整表作成義務を撤廃するために必要な事項とは、IFRSの財務諸表への適用と解釈に関し、忠実さや一貫性を詳細に分析すること、及び前述のFASBとIASBとのコンバージェンス・プロジェクトが継続して進められることが示されていた。

2005年から欧州連合内で上場する欧州企業は、IFRSに基づく財務諸表を公表することから、SECは欧州のSEC登録企業が提出するIFRS財務諸表を2006年中頃から分析することが可能である。

同年4月21日には、SEC委員長のドナルドソン氏(当時)とEC域内市場・サービス局のマクリーヴィー氏が会合を持ち、FASBとIASBによるコンバージェンス・プログラムへの支持を再確認するとともに、ロードマップの内容について合意した。

7. FASBとIASBの覚え書(MoU)公表

上記のロードマップで、FASBとIASBのコンバージェンス・プログラムが継続して進捗することが、調整表作成義務撤廃の一つの要件とされたことから、FASBとIASBは、2006年2月に覚え書(Memorandum of Understanding:MoU)"Roadmap for Convergence between IFRSs and US GAAP 2006-2008"を公表し、2006年から2008年にかけてのコンバージェンスの具体的な作業内容を示した。

コンバージェンス・プログラムに対するアプローチに関し、次の3つの指針に基づいてMoUは合意された。

  • 会計基準のコンバージェンスは、高品質で共通の基準を、時間を経て開発することにより最善の結果を達成できる。
  • 著しい改善を要する2つの基準の差異を解消することは、FASBとIASBの資源の最善の利用にはならない。その代わりに、投資家に報告される財務情報を改善する、新たな共通の基準を開発する。
  • 投資家のニーズを満たすこととは、FASBとIASBが弱い基準をより強固な基準で置き換えることによりコンバージェンスを追求すべき、ということを意味する。

この指針に沿って作業プログラムは策定されたが、SECによる調整表作成義務の撤廃を目標とした2008年までに完了すべき短期コンバージェンス項目とその他の長期項目に分類され、それぞれ達成すべき進捗状況も示された。

短期項目は、公正価値オプション、減損、法人税、投資不動産、研究開発費、後発事象、借入費用、政府補助金、ジョイント・ベンチャー及びセグメント報告の10項目である。短期項目については、原則として、後に開発された基準のほうがより品質が高いと見なし、その基準に合わせるというアプローチが取られた。

長期項目は、企業結合、連結、公正価値測定の指針、負債と資本の区分、業績報告(その後「財務諸表の表示」に変更)、退職後給付、収益認識、認識の中止、金融商品、無形資産及びリースの11項目である。

最後に、双方の審議会で必要なデュー・プロセスを経て進められることが確認された。

このMoU公表に対し、SEC、ECの双方から歓迎のメッセージが公表された。

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